『赤と青の星』 チョルココ星系政府 1
ドラン・ルゲナが語ったのは惑星ルテボボの歴史そのものだった。
偉大なるラグタタたちがルテボボを発見してのち、探索隊を組んでいた四氏族は再びあいまみえることとなった。
現在の惑星チョルココ第一および第二を発見したモニック一族は、他の氏族に対して連合政府の設立を提案した。
惑星チョルココ第三を発見したチチリア一族は提案に賛同した。
惑星を発見できなかったイグル一族も、チョルココ第二の行政権を委託されることで、モニック一族の提案を受け入れた。
ただ、ルゲナ一族だけが難色を示した。惑星ルテボボは独立国家になりたいと。
最終的には、偉大なるラグタタはわずかな条件で連合国家に参加することを承諾した。それは、惑星の名前を『チョルココ第四』とはせず『ルテボボ』とすることだった。
「いずれは独立国家に、それがルゲナ一族の悲願なのだよ」とドランは語った。
それぞれの惑星発見から実に二〇〇年。チョルココ第一から第三は、工業惑星として発展した。星系の立地が銀河の端にあることから、銀河中央の繁栄に追いつくことは到底かなわなかったが、手つかずの豊富な鉱物資源を利用し、地球型惑星改造を最小限に留めるこことで、チョルココ星系政府は勢力を強めていった。
唯一、惑星ルテボボだけが完全な形での地球型惑星改造を行い、一七〇年もの時間をかけた農業惑星への道を選択した。
しかし、ここに来て、チョルココ第一から第三までの経済発展に陰りが出始める。二〇〇年に渡り採掘を重ねた鉱床のいくつかが尽き始めたのだ。それにタイミングを合わせるように始まったルテボボの農業輸出国としての隆盛は、一部星系政府幹部の癇に障った。それが、〈赤の大陸〉の資源開発へと目を向かせる結果となったのだが──
「一方で、連中は、惑星ルテボボの権利に対して難癖をつけはじめたんだ」
ドランは拳を何度も自分の膝にたたきつけるようにしながら語った。
「あんたらも知っての通り、惑星ルテボボ第一次調査報告書はああいう内容だ。連中は、ルゲナ一族には所有権はないんじゃないか、と言い出したんだ」
現地権者テール・ルゲナ翁の権利に疑義が挟まるからと言って、それが即、惑星ルテボボがチョルココ星系政府の直轄管理下に移るということでは無いはずだ。しかし、政府内では、ルゲナ一族の権利さえ剥奪すれば後は何とでもなるという意見が大勢をしめているようだ。
「そんな時に現れたのがあの男だった」
今から五年ほど前のことだという。
惑星ルテボボにふらりと現れたその男は、テール・ルゲナ翁を訪ねてこう言った。
「この惑星の独立に手を貸しましょう。そのかわり、あなた方も私に手を貸してほしい」
男が出した条件は〈赤の大陸〉の一部を秘密裡に使わせるということだった。
「はじめは我々も渋ったんだ。赤の地に手をつけないというのはルゲナ一族の掟のようなものだったから」
しかし、状況はそんなことを言ってはいられなくなっていた。チョルココ星系政府の圧力が強まる中、件の男までもが第一次報告書のことを持ち出してきた。
「この報告書を封印することが私にはできます。政府を黙らせることもできます。黙って私に力を貸してくれれば、やがてはルテボボの独立もかないますよ」
ルゲナ一族が選べる道は一つしか残っていなかった。
「やむを得ず男の話に乗った。すると、すぐに政府からの圧力はなくなった。だが──」
武装宇宙船を建造するなど、想像もしていなかったという。
「今はまだ海賊船だ幽霊船だ、で済んでいる。でも、いずれあの男が武装蜂起を考えているのは明白だ。そのとき、惑星ルテボボが準備に手を貸していたとなったら……考えただけでも恐ろしい」
ルゲナ一族は秘密を守り続けるしか手がなくなっていた。今、すべてをさらして独立を掲げるだけの力も後ろ盾もない。
「男がどこの誰かも実はよく分からないんだ。しかし、あれだけの武力をもって立てば、確かにルテボボの後ろ盾としては申し分ないかもしれないが……」
神の怒りにふれる──とドランはつぶやいた。
「その男は、なんと名乗ったのですか?」と話の最後にデニスが訊いた。
「ふざけた名前だっだ。そいつは、星河王と名乗ったよ」