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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
19/94

『赤と青の星』 小さな出会い 1

 初めて降り立った惑星ルテボボの大気は、予想以上にさわやかだった。首都ラグタタの宇宙港からでも、この大陸がどれほど平らなのかが良く判る。

「打ち合わせは明日から行います。ホテルにご案内しますので、旅の疲れをゆっくりとお癒しください」

 迎えに出た担当者がにこやかに言う。

「ありがとう。お言葉に甘えさせていただくわ」

「あの、お連れ様はご一緒ではないのですか?」

「ああ、他の連中は少し遅れてくるわ。前の案件で別の場所にいたものでね」

「分かりました」

 空港を出て、車で十分も走ればホテルだった。チェックインをして、部屋に荷物を放り込むと、ソラは夕暮れのラグタタに飛び出した。

 ルテボボの一日は地球時間で22時間。短い夜を満喫しなければ。

 歓楽街での、ソラの楽しみ方は独特だった。ひとつの店に三十分程しかいないのだ。目に付いた店に飛び込み、カウンターに座ると飲み物とお勧めのメニューを頼む。店主や周りの客に気さくに声をかけ、追加をすることなく店を出る。そうやって、一晩で十件近い店をはしごしてまわるのだ。

 いつものようにラグタタの歓楽街ではしごを繰り返しての六件目。小さなミュージックバーにソラは入った。

 ステージではトランペットが哀愁漂うメロディーを奏でている。テーブルはいっぱいで、ソラはカウンターの端に腰かけた。

「こちら、お勧めは何?」

「何でも美味いよ」と恰幅の良いバーテンが無愛想に答える。

「そう。じゃあ、ソーセージとビールを頂くわ」

「あいよ」

 そうして、ソラがトランペットに耳を傾けながら店内を眺めていると、隅っこにしゃがみ込む小さな女の子が目に付いた。誰か連れがいるようには見えない。

 バーテンがビールとソーセージを持ってきたのをつかまえて、ソラは訊いた。

「あそこの女の子は何をしているの?」

「何もしてないよ」

「そう」

 ビールをぐっと半分ほどあけたソラは、席を立つと女の子に近づいた。

「こんばんわ、お嬢さん」

「こんばんわ」

 女の子はびっくりしたように顔を上げた。栗色の髪に大きな目をした可愛らしい女の子だった。

「私はソラ。お嬢ちゃんは?」

「わたしはネリア」

「そう。ネリアはこんなところで何をしているの?」

「パパを待っているのよ」

「そうなんだ。パパ、早く来ると良いわね。でも、もう夜も遅いわ。お家に帰った方がいいんじゃない?」

「でも……」

 明らかにネリアは眠そうだった。しかし、それでもそこを動こうとしない。周りの客たちも、ソラとネリアを見て見ぬふりをしている。

「ネリア、なにか食べる?」

 ネリアは小さく首をふった。

「ママがね、知らないひとから食べ物をもらっちゃだめだって」

「あら、ネリアとソラはお友達じゃないのかしら?」

「ソラはおともだち?」

「お友達よ」

「うん、おともだち!」

「何が欲しい? 夜も遅いし、温かいミルクはどう?」

「うん」

 ソラはバーテンを呼ぶと、ネリアに温かいミルクをやってくれと頼んだ。黙って頷いたバーテンは、マグカップに入れたミルクを出してくれた。

「ありがとう、ソラお姉ちゃん」

「どういたしまして。ねえ、ネリアのパパはどんなひと?」

「すっごく大きくてね、やさしいの! でも、おひげがゴリゴリしてちょっと痛いのよ」

「そうかあ。で、今日はここで待ち合わせなのね。お仕事忙しいのかしらね」

「……」

 上機嫌だったネリアが、目に見えてしゅんとなった。

「お約束したの。すぐ帰ってくるって。なのに……なのに……ふぇっ、ひっ……」

「あらあら」

 マグカップを抱えながら、ネリアは泣き出してしまった。ソラはマグカップを受け取って脇に置くと、泣いているネリアを抱き締めた。

「ネリアの親父は、一発当てに行って帰って来ないんだよ」先ほどのバーテンが近づいてきて、低い声で言った。

「一発当てに?」

「あんた、ルテボボに来たばっかりだろ?」

「ええ。昼間についたばかりよ」

「ああ、だから知らねえんだな。ここいらへんでは有名な話なんだよ。一年ほど前によ、ちょっと人を集めたいって奴があらわれたんだ。半年ほど小惑星の鉱石採掘の出稼ぎをしないかって話でな。ネリアの親父はラグタタ郊外の農場に雇われてたんだが、ちょうどへまをやってクビになったばっかりでよ。渡りに船ってんで乗ったんだ」

「……それで、帰ってこなかった」

「ああ。ネリアの親父だけが帰ってこなかったんだ」

 いつの間にか、ネリアは泣き疲れて眠ってしまっていた。バーテンはちょいちょいとソラを手招きする。ソラはネリアからそっと離れると、バーテンに誘われるままにカウンターへと戻った。

「ここだけの話だが、ネリアの母親には、当初の約束の倍の金が入ったらしいんだ」

「亡くなったってこと?」

「それは分からなねえけどな。だけど、母親が何度説明してもネリアには分からないらしくてよ……ああやって、毎日ここに来てるんだ。俺らもネリアの親父はよく知っていたからよ……なんだか切なくてなあ」

「そう……」

 ソラはネリアを見やった。小さくなって眠っている姿が、なんともやるせなかった。

「あの子の家はどこ? 連れていってあげなくちゃ」

「ああ、すぐ近くだよ」

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