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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
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『赤と青の星』 洞穴 3

 完全に日が暮れたのを見届けて洞穴に戻ると、入り口前でルードがソラを待っていた。なにかを吹っ切ったような顔をしている。ソラはさっきのことには触れずに、行きましょうか、と言って歩き始めた。

 ふたりは道なき道を歩き続けた。砂と岩ばかりの山裾は、時に大きく迂回し、時に小高い丘を越えて進まなければならなかった。

 そうして、二人が何度目かに丘を越えたところで、眼下に見覚えのある地形が広がった。

「ここね……」ソラがつぶやく。

 星明りに慣れた目には、丘の梺の平地の状況がよく見える。明らかに人の手による小屋が、大きな岩に寄り添うように建てられていた。今日は灯りは見えない。

「行ってみましょう」

 ソラが丘を下り始める。

「待って。そんな、武器も持たずに危ないよ」ルードが後を追ってくる。「俺らの飛行機を打ち落とした奴らだぜ」

「何者かは知らないけれど、でも、対人武装を持っているとは思えないわ」

「なぜ?」

「〈赤の大陸〉にひとはいないのだから」

「……」

 ソラは後ろを振り向かずに走った。小屋は岩を積み上げた粗末なもので、窓にはガラスもはまっていない。ソラは窓の脇にぴったりと体を寄せると、慎重に頭だけで中をのぞき込んだ。

「誰もいないわ」

「そう」

 頼りは星明りだけだが、中にひとの気配は感じなかった。

 ソラはぐるっと小屋の周りを見て回り、一気に入り口へと近づく。そこは扉すらはめられていない。

 ソラは周囲を見渡した。ルードがわずかに離れたところに立っている。それ以外にひとの気配はない。

 ソラはゆっくりと小屋の中に歩を進めた。

 岩で囲った上に木の板で屋根を葺いただけの粗末な小屋。木製の古ぼけたテーブルが中央におかれていて、それ以外には椅子すらない。テーブルの上には、一枚のメモが置かれていた。無造作に殴り書きされている数字とアルファベット。

 ──1534E06°02´

「ねえ、ルード。この部屋のどこかに、地下への入り口があるんでしょう?」

「何を言っているんだ? そんなの知らないよ」

 ソラはメモをルードの目の前にかざした。

「15時34分、東方06度02分……私たちが飛んできた時間と方角にぴったりね」

 ひとの住まない〈赤の大陸〉に現地時間はない。

「レーダーで捕捉したんだろ?」

「こんな小屋、黙ってやり過ごせば絶対に気づかれないのに。砲撃は、わざわざ居場所を教えてくれたようなものよ。おかしいでしょう?」

「……」

「まだあるわ。あなた、出発前に言ったわよね。貨物室にも燃料を積めば、惑星を二周だってできるって」

「言ったかな」

「でも、貨物室に予備の燃料は積んでいなかった。だから貨物室を狙撃されたにも関わらず燃料への引火を免れた」

「まいったな……」

 ルードが星明りの中で、がりがりと頭をかいた。

「燃料代は高いんだよ。ケチったのが仇になったか。まだあるんだろ?」

「訊きたいの?」

「是非」

「この大陸に落ちてからのあなたの態度よ。明らかに助かることを知っていた。そうでなければ、あんなに脳天気に私に迫ってなんてこられないはずだもの」

「俺に言わせれば、君の方が驚嘆に値するよ。こんな状態になれば心細くなって簡単に落ちると思ったんだけど」

 ルードの手がすっと差し出された。その手には、黒光りする金属の固まりが握られている。

「やっぱり」

「茶番は終わりにしよう。おとなしく従ってくれないと、君は自分の拳銃で死ぬことになるよ」

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