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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
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『赤と青の星』 洞穴 2

「ソラ、眠っている?」

「なに?」

「このまま何も見つからず、〈青の大陸〉に戻ることができなかったら、俺たちはずっとふたりで暮らすことになるんだよな」

「……そうはならないわ」

「何でだよ! そうなる可能性もあるだろ?」

「……」

「俺、ちょっと頼りないかも知れないけど、ソラのこと大切にするからさ……」

 切羽詰まった表情でルードがソラににじり寄ってくる。

「抱かせろってこと?」

「いや……そんなにはっきりとは言ってないけど」

「顔に書いてあるし、行動が示している」

「い、いざとなったら男の腕力には敵わないだろ?」

「さて、どうかしら」

「ソラは俺みたいな年下は嫌い?」

「年齢でひとの評価を変えたりしないわ」

「じゃ、じゃあ!」

「でも、発言と行動で評価を変える。ねえ、坊や。そんなに眼を血走らせてたら女性は興ざめよ。行動で惚れさせるぐらいしてみなさい」

「そ、それなら、行動で示したら俺の彼女になってくれる? 抱かせてくれるか?」

 はっ、とソラはひとつため息をついた。

「それは、娼館で娼婦を買うのと同じような言いぐさよ」

 ソラは立ち上がると、洞穴の外へと歩き出した。

「ど、どこへ?」

「しばらく外すわ」

「!」

 ルードが泣きそうな顔になる。ソラは振り向かずに言った。

「日が暮れたら出発するわよ。どうしても我慢できないなら、それまでにひとりで処理しておきなさい」



 西に傾いた太陽を、ソラは岩の上から眺めていた。気温はまだ高いが、真昼よりは過ごしやすい。真っ赤に染まるルテボボの太陽は、地球で見た夕焼けを思い出させた。

 さっきのルードの顔を思い出してわずかに胸が痛む。彼が年頃なのは分かっていたことだ。早晩迫ってくるだろうとも思っていたし、予定通りいなした訳なのだが──

 ああいうストレートな迫り方は、ソラとしてはいっそ好ましくもあるのだが、今はそれどころではない。加えて言えば、ルードを単なる無邪気な年頃の少年と見る訳にはいかない事情もある。

「……ほとんど確証はないけれど」

 墜落した貨物機から脱出したあのとき、ソラが気付いたときには、ルードは既に動き始めていた。あっちに貨物機の残骸があるよ、とソラに語りかけた。

「……」

 ソラは無意識に腰に手を回し、そこに拳銃がないことを確認する。緊急脱出装置はシートごと搭乗者を機外へ放り出すものだった。シートのパラシュートが開き、地面に落ちたときもシートに座った格好のままだった。シートと腰の間に挟まっていた拳銃が、いかな衝撃とはいえ簡単にどこかへいってしまうものだろうか。

 そして──

 ソラは上空を見上げ、右腕に固定してある携帯端末を掲げる。

 ソラには、仲間たちが自分を見つけてくれるという確信がある。この〈赤の大陸〉上空に衛星は飛んでいないかも知れないが、それでも彼女を捜し出してくれるひとたちがいることに確信をもっている。ソラの落ち着きは、そこに根ざしていると言って良い。

 しかし。

 ルードのあの無邪気さはなんだろう。こんな岩と砂しかない不毛の大地で、ふたりで暮らそうなどと、普通の感覚ならば言えるはずもない。

 ソラの瞳に暗い光が宿る。肉食獣のようなそれは、暮れゆく西の空に据えられ続けた。

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