『赤と青の星』 ルゲナ一族 2
「副社長……かっこよかったです」
ルゲナ一族との面会からホテルに戻る車内で、ディーアが腰をくねらせながらデニスに迫った。
「デニス副社長、俺にはいまいち状況が見えないんですけど」
「ああ、そうだな。惑星ルテボボ第一次調査報告書にはな──」
スティーは、デニスの話を聴いているうちに驚愕の表情になった。
「そ、それって、世紀の大発見じゃ……」
「ルゲナの一族が〈赤の大陸〉を封印した意味も分かろうってもんだし、更に言えば、この〈青の大陸〉の不可思議な状態についてすら解決の糸口になるかもしれない」
「最初から妙に平坦だったってやつですね」とディーア。
スティーはしばらくこめかみを押さえてうんうん唸っていたが、やがて口を開いた。
「でも、ルゲナ一族の所有権を揺るがすってのはいったい……」
「スティー先輩って馬鹿ですよねぇ」
「なに?」
「よっく考えても見てください。報告書に書いてあったこと、先輩は百パーセント、掛け値なしに信じらますか?」
「いや、それはちょっと信じがたいが」
「はい。んじゃ、先輩なんかよりずーっと頭の固い、チョルココ星系政府の役人や、他の国のお偉いさんとかはどうですか?」
「……そうか。とすると、報告書の解釈が違ってくるのか」
「そういうことですよぅ」
「この宇宙にはさ」とデニスが口を挟む。「人間が知らないことなんか山のようにあるんだよ。人間の認識なんて狭量だから、自分の目で見たモノしか信じることはできない。惑星ルテボボ第一次調査報告書の記載も、自分達に理解できる内容に読み替えてしまうんだ。ルゲナの先祖たちは、恐らくそれが分かっていたんだろうな。だから、時期が来るまで〈赤の大陸〉を封印したんだと思う」
「ただ、それが仇になった……」とディーアがつぶやく。
有人惑星の大陸がまるまるひとつ立ち入り禁止──こんな好条件はなかなか見つからない。武装宇宙船の艦隊を整備したい何者かが、これを見逃すはずはなかったのだ。
「ディーア、社長は見つかったか?」
「だめです。携帯端末は検索可能範囲外にあるみたいです」
「この惑星に偵察衛星はないのか?」
「そんなのありません。静止衛星ばっかりです」
「となると……宇宙船で代用するしかないか」
「え?」
「この星域にうちの息がかかった宇宙船はいないか?」
「あ……ちょっと待ってください」
ディーアが携帯端末で検索を開始する。
「お隣の惑星チョルココ第一に向かっている商船がありますね。ベルカルチャ船籍です」
「呼び出せるか?」
「はい」
「スティー、状況説明と応援を依頼してくれ。ディーアは依頼航路の作成を」
車がホテルに着くと、スティーとディーアは飛び出していった。その背中を眺めながら、デニスは次の一手に頭を巡らせた。