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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
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『赤と青の星』 ルゲナ一族 1

 ベルカルチャ惑星開発会社の面々は、何度目かのテール・ルゲナ翁との面談に臨んでいた。

「またあんた達か。何ど来られてもなあ」

「ルゲナ翁。今回は少し趣旨が違います」

 デニスの言葉に、ルゲナ翁は少し興味を惹かれたようだった。

「翁。我々がチョルココ星系政府から依頼されたのは〈赤の大陸〉の地質調査です。星系政府は、あの大陸に豊富な鉱物資源が眠っていると踏んでいます。それは、今までもお話した通りです」

「ふむ」

「我々は改めてこの惑星ルテボボの歴史を調べてみることにしました。ベルカルチャ惑星開発会社は、この星系からはずいぶん離れたところに本拠地をおいています。我々の経験では、地域にはそれぞれの風習や慣例があり、それはおいそれと余所者が無視してよいものではない場合が多いのです」

「当然じゃな」

「〈赤の大陸〉に手を出すべからず、という翁のお言葉はよく分かりました。それが、惑星開発以降、この星に住む人々の不文律となってきたことも。ですから、地質調査に関しては、チョルココ星系政府に対して、諦めるように進言することも考えています」

 翁はひげをしごきながら鋭い視線を送ってくる。

「地質調査に関しては……と申されるか?」

「そうです。地質調査などしなくとも、〈赤の大陸〉は既に十分開発されている可能性があるからです」

「……何やら良くわからないが」

 と、突然部屋の外がざわつき始め、翁と面会中の部屋の中へ、数人の屈強な男たちが入ってきた。その誰もがベルカルチャ惑星開発会社の三人をにらみ付けている。

「翁、こういうことですよ」男たちの中のひとりが言った。「こいつらは、俺たちが赤の地でこっそり悪さをしているんじゃないか、と言っているんですよ」

「なんと……そんことがあるはずがない」

「翁、あとの話し合いは俺たちがする。それで良いか?」

「……あまり手荒なことはせんようにな」

「分かっているよ」

 まっ青になる三人を尻目に、テール・ルゲナ翁は部屋を出て行った。残ったのは、屈強な男たち五人と、ベルカルチャ惑星開発会社の三人。

「さて、話し合いを続けようか。え、余所者のお三人様よ」



 翁が座っていた安楽椅子にどっかと腰を降ろしたのは、びっしりと髭を蓄えた壮年の男だった。彼はドラン・ルゲナと名乗った。

「さっき言っていたこと、詳しく聞かせてくれないか」

「どのことです?」とデニス。

「〈赤の大陸〉が既に開発されてるって話さ」

「……最近、この近辺の宙域で、海賊船と呼ばれる未確認の武装宇宙船が多数目撃されています。それは恐らく〈赤の大陸〉で建造されているか、そこを根城にしているはずです」

「海賊の噂はきいたことがあるが……この星が根城だなんて噂は初耳だ」

「出現ポイントを全部調べたわ」とディーア。「この惑星の周りだけ海賊船が目撃されていないの。不自然なくらいに。でも、ある程度の距離を置くと急に目撃数が増える。まるで自宅の近くで悪さをしない子供のようにね」

「……」

 男たちは黙ったままディーアをにらみ付けた。

「ま、まだあるぞ」と今度はスティー。「不自然な出稼ぎ労働があちこちであるそうじゃないか。惑星内の通貨流通量もよく調べるとおかしい。星系政府が調査に乗り出せば、ルテボボ中の多くの企業に追徴課税がなされるに違いないんだ!」

「なあ、お前達はなにがしたいんだ?」

 ドランが低い声を出した。

「お前達は一介の調査会社だろう。いったい何を思ってそんなこと調べたんだか知らないが、仮にお前達の主張がその通りだったとして、だからなんだ。何か関係あるのか? それとも、これはそう……脅迫ってやつか? だまっててやるから金を出せとか言うつもりかい?」

「惑星開発って、何のためにやるか知ってますか?」

 ドランの凄みに対して、デニスはどこ吹く風でそう質問した。

「何?」

「それは、そこに住んでいる人々を幸せにするために行うんです」

「……」

「少なくとも、それが我が社の社是なんですよ。だから、武装宇宙船を秘密裡に造っているようなことがもし本当にあるなら、それは黙って見過ごせない」

「正義の味方気取りかよ」

「我々は女王の味方です」

「女王?」

「星の女王。常に我々を見てくれている」

「訳のわからねえ宗教か」

 ドランが立ち上がった。胸の前で拳を解す。そんな威嚇の態度にも動じず、デニスは続けた。

「ねえ、ドランさん。我々は惑星ルテボボ第一次調査報告書を閲覧しました」

 どよっ、と男たちが動揺した。

「ああ、その様子だと何が書かれていたのか知っているようですね」

「な、何のことだ」

「あの報告書が本当なら、この惑星ルテボボの所有権をルゲナ一族が主張するのは少し難しくなりはしませんか?」

「馬鹿な! あの報告書には、少々妙なことが書いてあるだけだ」

「でも、星系政府や、他の惑星国家はそういう判断はしない。宇宙管理機構惑星権利裁判所の訴訟に持ちこめば、少なくとも所有権保留という結論ぐらは出そうですよね」

「何が言いたい」

「全てを話してもらえませんか。ここ惑星ルテボボの人々が、武装艦隊を整備しようとしているとは思えません。今、私が言ったのと同じような話で脅迫されているのではないのですか?」

「仮にだ。仮にそうだとして……お前達に何ができる」

「調査ができます」

「調査?」

「ルテボボ第一次調査報告書に変な言いがかりをつけられる前に、〈赤の大陸〉の正式な調査報告書を我々が提出すれば良いんです。そうすれば、ルゲナ一族の所有権が揺らぐことはない。下手に隠すからつけいる隙を与えるんですよ」

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