表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
11/94

『赤と青の星』 公文書館分室 2

「……計算、合わないですね」ディーアがつぶやいた。

「計算?」

「ええ。見てください副社長。これがルテボボ中央銀行の月ごとの預金残高。これが貿易収支。ルテボボの通貨はチョルココ星系発行のものだから……本来の流通量はこの数字ですね。で、全体を合計すると……ほら、計算が合わないんですよぅ」

 ディーアが示した数字は、どこかから政府が把握していない資金の流入があることを示していた。基本的に通貨は通貨カードの残高としてやりとりされるので、キャッシュによる箪笥預金のようなものはそれほどの金額にはならないはずだ。

「噂の出稼ぎが証明されたってところか?」

「……それだけでは説明しきれないですね。金額大きすぎますよ。個人の収入だけじゃなくて、企業規模で非課税の収入があるんじゃないですか?」

「我々は税務署ではないから課税の有無はともかく……なんだと思う?」

「海賊のことが頭をよぎりますよね」

「そうだな」

「妄想全開で話しますけど……〈赤の大陸〉に武装宇宙船の製造工場があるんじゃないですか? ルテボボの企業のいくつかはそれに力を貸しているんじゃないかと思うんですよ。もちろん、チョルココ星系政府には秘密で」

 あながち妄想とはいえないな、とデニスは思った。いくつかの事柄はこれで説明が付いてしまう。ただ、その通りだとしたら、武装宇宙船を作っているのはいったいどこの誰なのだろう。どこかの大国が、密かに宇宙艦隊の増強を図っているのだろうか。それとも、いまは伏している新たな勢力があるというのだろうか。その勢力が、この惑星上にいないという保証はなにもない。とすれば、星系政府に請われて〈赤の大陸〉を調査しようとしている我々は、邪魔もの以外の何者でもないだろう。

「スティー、そっちはどうだ?」

「……ルテボボ発見の経緯が、ランクBで閲覧できないなんてことありますかね?」スティーが困惑気味に顔を上げた。「ランクSのパスキー、貸してもらえますか?」

 デニスからパスキーを受け取ると、スティーは再び検索端末に向かった。

「年代は……で、惑星ルテボボの第一次調査報告っと。あった……あれ? あれ?」

「どうした?」

「惑星ルテボボの第一次調査報告書が、ランクSでも閲覧不可になってます」

「不可? 馬鹿な。それ以上の閲覧ランクなんてないだろう」

「……そうなんですが」

 デニスとディーアがスティーの後ろから端末画面をのぞき込んだ。

「これ……もしかしたら誰かが意図的に封印したんじゃないですか? スティー先輩、ちょっと代わってもらえます?」

 ディーアは検索端末の前に座ると、端末脇の目隠しパネルを開いた。

「先輩、入り口見ててもらえます?」

「俺が?」

「ほかにいないでしょう?」

「頼むよ、スティー」

「……はい」

 渋々、スティーが公文書館分室の入り口脇に張り付く。

「いいですか? 副社長」

「ああ」

 ディーアは自分の携帯端末を取り出すと、外部接続コードを引っ張りだし、目隠しパネル内の端子のひとつに繋いだ。

「閲覧ランク自体は足りてるはずですから……ちょいちょいとやれば……」

 ディーアが携帯端末に指を滑らすと、公文書検索端末の画面に何度かノイズが走った。携帯端末側の画面に数字の羅列が走り始める。ディーアが目を皿のようにしてそれを見つめ、やがて一カ所に目を止めた。素早くいくつかの数字を書き換える。

「はい、これで閲覧できるはずです」

 ディーアの操作に従って、惑星ルテボボ第一次調査報告書が開示される。

 デニスは食い入るようにそれに目を通して──

「な、なんだこれは……」



 突如、大音量のブザーが鳴り響いた。

「なんだ?」

「おそらく、この報告書にトラップが仕掛けられてたんですね。パラメータを書き換えて閲覧したら作動するようになってたんじゃないかと思います」

「おい、これやばくないか? 逃げなきゃまずいんじゃないのか?」

 スティーがあわてて駆け寄ってくる。

「逃げる? まあ待て。ディーアが報告書を元通りに書き直してからだ」

「戻しておく意味があるかどうかは分からないですけどねぇ」

「そんなのんびりしてて、警備とかとんでくるんじゃ」

「だから落ち着け、スティー。よく聴いて見ろ。これは火災報知器だ。件の報告書を閲覧した人間を驚かすだけのためのものだよ」

「できました。行きましょうか」

 ディーアが立ち上がる。三人が揃って公文書館分室を出たとことろで、ルテボボ支府の警備員が数人走ってきた。

「大丈夫ですか!」警備員のひとりがデニスたちに声をかける。

「何ですか? どこかで火事ですか?」とデニス。

「そのようなのですが、まだ出火もとが特定できません。あわてずに建物の外へ避難してください」

「分かりました」

 何食わぬ顔をして、三人はその場をあとにした。

「副社長、いったい何が書いてあったんですか?」

「細かな話はあとだ。ただ、あの報告書が本当なら、〈赤の大陸〉の地質調査どころの話じゃなくなるな」

「……」

「ディーア。社長の居場所、強制的に検索できるか?」

「……やってみます。この大陸にいるなら何とかなると思いますけど。衛星がカバーしていない地域にいるとなると……」

「試してみてくれ」

「はい」

 衛星がカバーしていない地域。

 この星を出てしまっていることはないだろう。

 とすれば──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ