『赤と青の星』 公文書館分室 1
「公文書館というか……図書室、くらいの言い方が正確ですね」
数機の検索端末が並ぶだけの小さな部屋を見回して、スティーがぼやいた。
ルゲナ翁との交渉に手詰まりになったデニスたちベルカルチャ惑星開発会社の面々は、チョルココ星系政府に公文書の閲覧許可を求めたのだった。ここはルテボボ支府内の星系公文書館分室だ。
「公文書館なんてどこもこんなものだ。利用者が多い施設じゃないしな。さっさと始めよう」
デニスが検索端末の前に腰を下ろす。カード型の政府専用パスキーを端末に差し込むと、検索画面が立ち上がった。
「俺は現状の〈赤の大陸〉について調べる。スティーはルテボボ発見に関する報告を調べてくれ。ディーアは、昨日の〝出稼ぎ〟と〝海賊〟についてなにかあるかだ」
政府から支給されたパスキーは三つ。デニスが使っているものが政府高官専用の閲覧ランクS。他のふたりのものは一般政府関係者用のランクBだ。
「ときに、前から副社長に訊いてみたいことがあったんですけどっ……いいですか?」
端末に軽やかに指を滑らせながらディーアが訊いた。
「なんだ?」
「副社長と社長って、どうやって知り合ったんですか?」
「秘密」
「えぇ? けち。教えてくださいよぅ」
「社長に訊いてくれ」
「……あの社長が教えてくれると思いますか?」
「さあな。女同士だとどんな話をするのか知らないしな」
「俺、噂ならきいたことありますよ。副社長がナンパしたんでしょ?」
「秘密だ」
「じゃあじゃあ、話変えます。社長と副社長って肉体関係あるんですか?」
「……もっと秘密だ」
「隠すってことは、あるってことですね! そうですね!」ディーアが身を乗り出す。
「いやいや、逆を取ってないのかもしれないよ」とスティー。
「何それ」
「だってほら、どう見ても社長と副社長はパートナーじゃん? ビジネスだけじゃない訳だから、俺らから見れば男女の関係なのは一目瞭然……に見えるじゃん」
「うん」
「ところが、ぎっちょん」
「ぎっちょん?」
「実は二人の間には何もない……なんてことになったら、デニス副社長の意気地なし、とかそんなことになるわけだよ。デニスさん面目丸つぶれ」
「ああ、そっか!……そうなの? 副社長」
「おまえら仕事しろ!」