『赤と青の星』 プロローグ
折に触れて思い出すのは幼い頃の記憶。
すり切れた布団。汚れた天井。忍び込むすきま風。
すすけた母の背中。姉と慕ったひとの手のひら。師とあおいだひとの声。
ただ流された日々と、雌伏の時と信じた日々と、世界と対峙することを決めた日。
座ったまま四方の壁に手が届く──その広さが世界そのものだった頃と比べると、彼女の世界は途方もなく大きくなった。夜空に輝くあの星にも手が届く。きっと、銀河の果てにだって手が届く。
今、彼女の両の眼が見ている世界はとてつもなく広い。両の手で抱えているモノも大きい。両の足元に積み上がっているモノも高い。
それでも、折に触れて彼女が思い出すのは幼い頃の記憶だ。
世界と対峙すると決めて、自らの力で全てを切り開くと決めたあの日、幼い自分とは決別をした。しかし、それをなかったことにするつもりはない。
今、彼女が歩いている道は、まごうことなく過去から続いている道だ。今の自分は、あの頃の自分の延長線上にある。ひとに語ったことはないけれど、それは彼女の中で常に一貫していることだ。
だから。
あの幼い日々の記憶が呼び起こされる時、それは彼女の生き方の本質に関わる時。端からは単なる感傷に見えようとも、そこには彼女の人生そのものの筋が通っている。
それはたいがい、他愛もない場所での、些細なことが発端となる。
たとえば。
赤と青の惑星の片隅での、小さな出会いのような──