ー第3項 最強の合成獣キメラと遭遇するも、その咆哮すら神の「珍味」として消費される話
第3項 最強の合成獣キメラと遭遇するも、その咆哮すら神の「珍味」として消費される話
その時、地面が揺れた。
闇の奥から、二つの赤い光が燃え上がる。
ヌゥゥゥ……という低い唸り声と共に現れたのは、獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ巨大な怪物――キメラだった。
推定ランクはS。一国を滅ぼしかねない災害級のモンスターである。
『うわあああ! キメラだ!』
『逃げろ! 死ぬぞ!』
『終わった……』
コメント欄がパニックに陥る。
しかし、ケンジは動かない。パイプ椅子に深く腰掛けたまま、ぼんやりと怪物を見上げている。
「でかい犬だな……。保健所に連絡した方がいいかな」
恐怖を感じていないわけではない。恐怖という感情が発生した瞬間に、モフ助がそれを「パクッ」と食べてしまうのだ。
キメラが大きく息を吸い込んだ。
GROAAAAAAAAAA!!
鼓膜をつんざく咆哮。それは単なる大音量ではない。「威圧」の状態異常を付与し、獲物の心臓を麻痺させる精神攻撃だ。
本来なら、ケンジはショック死していてもおかしくない。
だが。
『んほぉぉぉぉ! これこれ! このピリリとくる刺激! 唐辛子たっぷりの激辛麻婆豆腐みたいだぜぇ!』
モフ助が歓喜の声を上げ、ケンジの周囲で高速回転を始めた。
配信画面には、激しいブロックノイズと、白い竜巻のようなエフェクトが走る。
キメラの放った「絶望」と「恐怖」の波動は、全てモフ助の胃袋(異空間)へと吸い込まれていった。
「……ちょっと、うるさいなぁ」
ケンジが眉をひそめて耳をほじった。
彼に残ったのは、「近所の犬が吠えててうるさい」程度の不快感だけだった。
キメラが硬直した。
自らの最強の咆哮を受けた人間が、あくびを噛み殺しながら耳をほじっている。
その事実は、怪物の本能に「未知への恐怖」を植え付けた。
『キメラが……引いてる?』
『咆哮が効いてない!?』
『あのノイズ、やっぱり社畜ニキのオーラじゃね?』
『音圧を気合で相殺したのか……』
視聴者たちの考察は、どんどん的はずれな方向へ、しかし神格化する方向へと加速していく。
ケンジはただ、静かに酒を飲みたいだけなのに。




