表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/25

第2章 第1項 バズりの自覚なき社畜が、快楽(ストレス捕食)を求めて自ら最深部の死地へ赴く話

第2章 解脱系配信者、爆誕


第1項 バズりの自覚なき社畜が、快楽(ストレス捕食)を求めて自ら最深部の死地へ赴く話


 ブラック・ホールディングス本社、薄暗い用具室のような一室。

 佐藤ケンジは、スマホの画面を眺めながら首を傾げていた。画面には「10万いいね」という見たこともない数字が並んでいるが、彼にはそれがただの電子的な光の点滅にしか見えない。


「佐藤君、君、わかってるのかね!? 今、君は時の人なんだよ!」

 目の前で唾を飛ばしているのは、昨日までケンジをゴミ虫のように扱っていた黒川部長だ。今日はなぜか、揉み手をして媚びへつらっている。

「オークの群れを素手で追い払う動画、あれがバズりにバズって、我が社の株価もストップ高だ! そこでだ、今日は特別に休暇を……」


「あ、部長。俺、今日『第九エリア』に行きたいんですけど」

 ケンジは黒川の言葉を遮った。その瞳は、相変わらず死んだ魚のように濁っているが、どこか深い井戸のような底知れなさがある。


「は、はあ!? 第九エリアだと!? あそこはSランク指定の未踏破区域だぞ! 自殺志願者でも近づかない!」

 黒川が裏返った声で叫ぶ。当然の反応だ。第九エリアは、生還率0%と言われる深層部。会社としても、そこへの派遣は「廃棄処分」と同義だ。


 だが、ケンジにとっての理由はシンプルだった。

 昨日、モフ助にストレスを食べられたあの感覚。脳が痺れるような解放感。あれが忘れられないのだ。

 通常の業務程度のストレスでは、今のモフ助は満足しない。もっと強烈な、死に直結するようなプレッシャー(餌)が必要なのだ。


『ケンジ、もっと濃いのくれよ。オークの殺意じゃ、もう薄味で食えねえ』

 肩に乗ったモフ助が、空腹を訴えてプルプルと震えている。

「ですよねー。じゃあ、一番ヤバそうなところに行けば、極上のストレス(ごちそう)があるはず」

 ケンジは独り言のように呟く。


「……き、君が本気なら止めはしないが、誓約書は書いてもらうぞ! 死んでも会社の責任じゃないからな!」

「はいはい、書きますよ。どうせ死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。全ては確率の揺らぎに過ぎません」

 サラサラとサインをするケンジ。その姿は、まるでランチのメニューを決めるような軽やかさだった。


 こうして、世間が「謎の最強社畜」の正体を探る中、当の本人は更なる「快楽」を求めて、地獄の釜の底へと足を向けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ