ー第4項 帰宅後の自宅でネットの反応を確認しつつ、毛玉神モフ助との奇妙な同居生活と新たな日常を受け入れる話
第4項 帰宅後の自宅でネットの反応を確認しつつ、毛玉神モフ助との奇妙な同居生活と新たな日常を受け入れる話
ボロアパートの一室。築四十年の六畳間に帰宅したケンジは、コンビニで買った発泡酒と焼き鳥をちゃぶ台に置いた。
「ふう……。なんか今日は疲れないな」
いつもなら泥のように眠り込むところだが、身体の奥底からエネルギーが湧いてくるようだ。
『そりゃそうよ。お前の負の感情、俺が全部食ったからな』
ちゃぶ台の真ん中に鎮座したモフ助が、焼き鳥の匂いを嗅ぐようにフワフワしている。
「お前、焼き鳥も食うのか?」
『物質は食えん。俺が食うのは「概念」だ。この焼き鳥に込められた「安く済ませようとする侘しさ」とか、そういうのを頂く』
モフ助がスッと焼き鳥の上を通過すると、なんとなく焼き鳥の照りが消え、パサパサした見た目になった気がした。
「おい、味落とすなよ」
文句を言いながら一口かじる。……味は変わっていない。むしろ、余計な脂っこさが消えてサッパリしている。
「で、結局お前は何者なんだ?」
『言ったろ。異界の神だ。お前らの世界で言うところの……まあ、貧乏神と福の神のハイブリッドみたいなもんか? お前の「苦しみ(四苦八苦)」を俺が食い、代わりに「解脱」を与える。Win-Winだろ?』
ケンジはスマホを取り出し、SNSを開いた。
トレンドワードに「#社畜無双」「#放送事故探索」が入っている。
動画の切り抜きが拡散されていた。自分がオークを吹っ飛ばすシーンだ。
『この人、目が死んでるのに強すぎる』
『ブラック企業で精神修行しすぎて涅槃に達した説』
『横のノイズ、心霊現象じゃね?』
コメントを見ながら、ケンジはクスリと笑った。
「有名人だな、俺」
以前なら、会社にバレてクビになることを恐れていただろう。黒川部長の報復に震えていただろう。
だが今は、不思議と恐怖がない。
「まあ、どうせいつかは死ぬし。会社がどうなろうと、俺の知ったことじゃないか」
缶ビールを開ける。プシュッという音が、昨日よりも軽やかに響いた。
『その意気だ、相棒。もっと絶望しろ、もっと諦めろ。その極上の味が、俺を育てる』
モフ助が嬉しそうにケンジの頭に擦り寄ってくる。
「絶望してんのに最強って、変な話だな」
ケンジはモフ助を撫でた。フワフワとした感触が指に伝わる。
明日もまた、理不尽な業務が待っているだろう。黒川部長はさらに激怒しているに違いない。
だが、今のケンジには最強のメンタルケア担当兼、物理無効化の盾がいる。
「さて、寝るか。明日は早いし」
布団に潜り込むケンジ。その横で、モフ助が常夜灯のように淡く発光し始めた。
社畜と神様の奇妙な共同生活。それは、世界を揺るがす騒動の、ほんの始まりに過ぎなかった。




