ー第3項 社畜の異常な活躍が配信切り忘れでネットに流出し、守護霊疑惑と放送事故扱いでバズり始める話
第3項 社畜の異常な活躍が配信切り忘れでネットに流出し、守護霊疑惑と放送事故扱いでバズり始める話
「な、なんだ今の動きは……!?」
後方で見ていた黒川が、ポカンと口を開けていた。
ケンジが無傷なのもおかしいが、あの素手の一撃でオークの群れを壊滅させた光景は、常識では説明がつかない。
「部長、終わりましたよ。ドロップアイテム、拾ってくださいね」
ケンジは何事もなかったように戻ってきた。その表情は、相変わらず眠そうだ。
「お、おい佐藤! お前、何か隠しアイテムでも使ったのか!? 会社の備品を横領したんじゃないだろうな!」
「まさか。そんな気力ないですよ」
ケンジは肩をすくめる。黒川の怒鳴り声も、今の彼には心地よいBGM程度にしか感じられない。モフ助が黒川から発せられる「パワハラ・オーラ」をスナック感覚で摘まんで食べているからだ。
その時だった。
パーティの一人が、青ざめた顔で黒川に駆け寄った。
「ぶ、部長! 大変です!」
「なんだ五月蠅い!」
「記録用のゴープロ……電源切り忘れて、ずっと配信状態でした!」
「はあ!?」
ブラック・ホールディングスでは、成果報告のために探索の様子を録画することが義務付けられている。さらに最近は小遣い稼ぎとして、探索の様子を生配信することもあった。ただし、それはあくまで「勇敢な社員の活躍」を演出する場合に限る。
今回のような「下請けを捨て駒にする様子」など、絶対に見せてはならないものだ。
「あ、あの……同接が五千人超えてます……」
「なっ!?」
配信のコメント欄は、滝のように流れていた。
『今の何? CG?』
『この社畜っぽいお兄さん、素手でオーク弾いたぞw』
『動きが人間じゃない。達人か?』
『なんか、この人の周りだけ映像乱れてない?』
『ノイズ走ってるよな。白い影みたいなのが見えた気がする』
『守護霊?』
『いや、放送事故だろこれw』
ケンジの虚ろな目と、神がかった回避、そして一撃必殺の掌底。
それらが全て、リアルタイムで全世界に流れてしまっていた。
画面上のケンジの横には、時折ブロックノイズのような歪みが発生している。モフ助の姿はカメラには映らないが、その高すぎるエネルギーが映像信号に干渉し、「謎の影」として映り込んでいたのだ。
「佐藤ぅぅぅ! お前、何を勝手に目立ってるんだ!」
黒川が掴みかかろうとするが、ケンジはひょいと身をかわす。
「いや、カメラ切り忘れたのそっちじゃないですか。俺、定時なんで帰りますね。あ、今日の残業代は請求しませんから。これこそ『空』なんで」
ケンジは軽く手を振ると、呆然とする一行を残して出口へと歩き出した。
その背中には、誰も見えない白い毛玉が、満足げに揺れていた。
こうして、「ブラック企業の捨て駒社畜」だった佐藤ケンジは、本人の預かり知らぬところで「謎の悟り系最強シーカー」として、ネット界隈をざわつかせることになったのである。




