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ー第3項 かつての暴君上司が清掃員として雇われ、自らのパワハラが跳ね返る呪いに怯えながら床を磨く話

第3項 かつての暴君上司が清掃員として雇われ、自らのパワハラが跳ね返る呪いに怯えながら床を磨く話


 地下二階、清掃員控室。

 作業着に身を包んだ黒川は、モップを握りしめて震えていた。

 会社が買収された際、彼は当然解雇されると思っていた。だが、ケンジは慈悲深くも(?)彼を再雇用したのだ。ただし、役職は「トイレ清掃員兼雑用係」として。


「くそっ……! なんで俺がこんな……! 俺は部長だったんだぞ!」

 誰もいない廊下で、黒川は毒づいた。

 かつての部下たちが楽しそうに談笑しながら通り過ぎるのを見るたび、屈辱で腸が煮え繰り返る思いだった。


「おい、そこ拭き残しがあるぞ!」

 つい、昔の癖で通りがかりの若手社員に怒鳴りそうになった瞬間だった。


 ズキンッ!!

 激痛が黒川の頭を襲った。

 同時に、幻聴が響く。

 『おい、ゴミ! ちゃんとやれ!』

 『お前の代わりなんていくらでもいるんだよ!』

 それは、かつて自分が部下たちに浴びせた罵倒の数々だった。


「あがががっ……!?」

 黒川はその場にうずくまった。

 これは、モフ助がかけた呪い――「逆・おつまみ現象」だ。

 黒川が他人に対して悪意や傲慢さを抱いた瞬間、その感情が増幅されて自分自身に跳ね返ってくるのである。


 『い、痛い……やめてくれ……!』

 自分の言葉が、刃物となって自分の心を切り刻む。

 彼は気づいていなかった。自分がどれほど酷い言葉を吐き、どれほど人の心を傷つけてきたかを。今、彼はそれを我が身をもって体験させられているのだ。


「あ、黒川さん。お疲れ様です」

 通りがかったケンジが、缶コーヒーを差し出した。

 その笑顔には、一切の悪意がない。ただの純粋な労いだった。


「さ、佐藤……社長……」

 黒川は涙目でケンジを見上げた。

 もし、この缶コーヒーを叩き落としたら? もし、罵倒したら?

 想像しただけで、脳が焼き切れるほどの激痛が予感された。


「……あり、がとう、ございます……」

 黒川は震える手でコーヒーを受け取った。

 その瞬間、頭痛がスッと引いた。

 感謝。謙虚さ。それら抱いた時だけ、呪いは鳴りを潜めるのだ。


「綺麗にしてくれてありがとうございます。床が光ってると気持ちいいですね」

 ケンジはそう言い残して去っていった。

 残された黒川は、モップを握りしめ、ボロボロと涙を流した。それは悔しさではなく、初めて知る「改心」への第一歩だったのかもしれない。


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