第5章 第1項 莫大な報酬を持て余した最強無職が、倒産寸前の古巣を気まぐれに買い取り、立場を完全に逆転させる話
第5章 究極のホワイト企業
第1項 莫大な報酬を持て余した最強無職が、倒産寸前の古巣を気まぐれに買い取り、立場を完全に逆転させる話
世界を救ってから一週間。
佐藤ケンジの銀行口座には、国家予算並みの報奨金が振り込まれていた。桁が多すぎて、一瞬バグかと思ったほどだ。
「……使いきれねぇな、これ」
六畳一間のアパートで、ケンジは通帳を見つめて溜息をついた。
高級車? 興味ない。豪邸? 掃除が面倒だ。世界一周旅行? パスポート取るのがだるい。
彼の欲望は「美味い酒とつまみがあり、穏やかに眠れればそれでいい」という省エネ設計で完結していたのだ。
そんな時、テレビのニュースが流れた。
『かつての大手探索会社、ブラック・ホールディングスが倒産寸前です。元幹部の不正発覚や、主力メンバーの引き抜きにより、株価は大暴落……』
画面には、かつてケンジが勤めていた本社ビルが映っている。債権者たちが押し寄せ、罵声を浴びせている光景だ。
『あの会社、お前の怨念がこもったパワースポットみたいなもんだぞ。潰れると、負のエネルギーが行き場を失って爆発するかもな』
肩に乗ったモフ助が、スルメを齧りながら不吉なことを言う。
「それは困るな。近所だし、寝覚めが悪い」
ケンジは少し考えた後、スマホを取り出した。
連絡先は、政府の特務課の担当者だ。
「あ、もしもし佐藤です。……はい、元気です。あのさ、使い道のない金があるんだけど、買い物頼んでいい?」
電話の向こうで、担当者が身構える気配がした。
「は、はい! 何なりと! 島でも買いますか? それとも核シェルター?」
「いや、ブラック・ホールディングス。あれ、丸ごと買っといて」
「……は?」
「だから、会社。買収っていうの? 社員ごと、全部」
数日後。
ブラック・ホールディングスの本社ビルに、新しい看板が掲げられた。
その名も『株式会社ホワイト・おつまみ』。
ふざけた社名だが、筆頭株主兼社長は、あのアパートから出てきたスウェット姿の佐藤ケンジである。
大会議室に集められた全社員の前で、ケンジはマイクを握った。
「えー、新社長の佐藤です。めんどくさいので手短に言います」
ざわつく社員たち。かつて「ゴミ」扱いされていた男が、壇上で欠伸をしているのだから無理もない。
「今日から、残業は禁止です。定時で帰ってください。副業も自由です。あと、社内バーを作ったんで、適度な飲酒は推奨します。以上」
静まり返る会場。
誰もが耳を疑った。
「あ、それと。ノルマとかないんで。赤字になったら俺のポケットマネーで補填するから、適当に頑張ってください」
その瞬間、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
地獄の底から天国へ。社員たちの目から涙が溢れる。
こうして、世界一やる気のない社長による、世界一ホワイトな企業が爆誕したのだった。




