第3章 第1項 バズった収益を巡り、強欲な上司が契約書を盾に搾取を目論む話
第3章 ブラック企業、浄化される
第1項 バズった収益を巡り、強欲な上司が契約書を盾に搾取を目論む話
ブラック・ホールディングス本社、最上階の役員室。
革張りのソファに深々と腰掛けた黒川部長は、満面の笑みで目の前のモニターを見つめていた。画面には、昨夜のケンジの配信アーカイブが表示されている。再生回数は一晩で百万回を突破していた。
「素晴らしい……! これだ、これこそ我が社が求めていた『コンテンツ』だ!」
黒川の手には、分厚い契約書が握りしめられている。
そこには、社員が行ったあらゆる活動の収益は、全額会社に帰属するという、現代の奴隷契約とも言うべき条項がびっしりと書かれていた。
「佐藤君、入りたまえ」
ノックの音と共に、ケンジが入室してきた。相変わらずヨレヨレのスーツ姿だが、その表情はどこか晴れやかだ。
肩には、黒川には見えないモフ助が乗っている。
「失礼します。……あの、退職願を持ってきたんですけど」
ケンジが懐から封筒を取り出そうとした瞬間、黒川がバン! と机を叩いた。
「バカ言ってるんじゃない! 君は今、我が社の希望の星なんだぞ!」
黒川は立ち上がり、ケンジに歩み寄る。その目は、金の亡者が獲物を見つけた時の輝きを放っていた。
「見ろ、この数字を! 投げ銭だけで数百万だ! これがあれば、君の給料を上げてやることもやぶさかではないぞ。……まあ、諸経費を引いて、手取り十七万くらいにはしてやろう」
ケンジはきょとんとした顔で黒川を見た。
「え、十七万ですか? 今の十五万から二万もアップ? すごいですね」
嫌味ではなく、本心からの感想だった。長年の社畜生活で金銭感覚が麻痺しているのだ。
しかし、黒川の次の言葉が、その空気を凍りつかせた。
「ただし! 今後も君の配信活動は全て会社の管理下に置く。アカウントのパスワードを教えなさい。それと、君のプライベートな時間も全て捧げてもらう。君という存在自体が、我が社の『備品』なのだからな!」
備品。
その言葉が、ケンジの胸の奥底にある何かを刺激した。
人間扱いされていないことは知っていた。だが、面と向かって「物」だと言われると、さすがに湧き上がるものがある。
「……備品、ですか」
ケンジの声が低くなる。
ドクン、と心臓が跳ねた。それは「怒り」だった。静かだが、確実に燃え上がる義憤。
『お? なんだなんだ、今日の怒りは一味違うぞ? 熟成されたヴィンテージワインみてぇなコクがある!』
肩の上のモフ助が、目を輝かせて(目はないが)身を乗り出した。




