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ー第5項 配信を見ていた数万人が勝手に「おつまみ教」を発足させ、ケンジが現代の聖人となる話

第5項 配信を見ていた数万人が勝手に「おつまみ教」を発足させ、ケンジが現代の聖人となる話


 その瞬間、コメント欄の流れが止まった。

 そして、爆発した。


『神』

『パイプ椅子最強伝説』

『Sランクを「お座り」で沈めたぞwww』

『「過ぎ去ればただの風」……深い。深すぎる』

『俺、会社辞める勇気出たわ』

『チータラ拾って食う姿に、人間の尊厳を見た』


 配信の同接数は、いつの間にか五万人を超えていた。

 現代社会に疲れた人々にとって、死地にいながらパイプ椅子で晩酌し、怪物をあしらうケンジの姿は、ある種の「救い」に見えたのだ。

 彼の適当な呟きは、高尚な哲学として解釈された。


『この人、解脱してる』

『おつまみ片手に真理を説く聖人だ』

『【おつまみ教】入信します』

『我々はチータラである』


 SNSでは「#おつまみ教」「#パイプ椅子聖人」がトレンド入り。

 ケンジの知らないところで、彼はカルト的な人気を博す教祖として祭り上げられ始めていた。


「……ん? なんか電波悪いな」

 ケンジはスマホを取り出したが、通知が止まらないため画面がフリーズしていた。

「ま、いっか。帰って寝よ」


 彼は空になった缶を丁寧にゴミ袋に入れ、パイプ椅子をたたんだ。

 帰り際、気絶しているキメラの横を通り過ぎる時、ふとモフ助が囁いた。

『こいつの魂、ちょっと齧っていいか?』

「ダメだ。消化不良起こすぞ」

『チェッ。過保護な宿主だぜ』


 ケンジは出口へと歩き出す。

 その背中には、目に見えない白い神様と、数万人の信者たちの熱視線が注がれていた。

 だが、当のケンジにとって大事なのは、明日の出勤時間がいつもより30分遅いことだけだった。


 次章、「聖人、崇められる」。

 無欲の社畜と、欲望まみれの信者たち。勘違いの連鎖は、ついに国家権力をも巻き込んでいく。

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