雑貨屋 - 2
「どうですか……?」
システィナがドキドキした様子で尋ねると、店主はゆっくり頷いた。
「これなら買い取ってもいい。灯りの瓶詰一つ、四〇〇〇ルルでどうだ?」
「それは、ええと……」
どこか戸惑うようなシスティナの態度に、店主は眉を顰めた。
決して安い金額を提示したつもりではないのだ。不満を言われたとしても、これ以上買値を上げるつもりはない。そもそも、幼い子供の瓶詰め職人なのに質は思ったより悪くなかったため、期待をして色をつけたくらいだ。しかし、続くシスティナの言葉に店主は驚いた。
「四〇〇〇ルルだと、何が買えますか?」
「何を? そういえば、売った金で買い物をしたいと言っていたね。ある程度のものは買えるが、何か欲しいものが決まっているのか?」
「絶対に欲しいのは、瓶詰作りの材料です。あと、お肉と食べ物が欲しいです」
「希少な素材は売っていないが、一般的なものなら揃っている。食べ物も問題はない」
店主がそう告げると、システィナは「よかった!」と安堵の笑みを浮かべた。
システィナが持ち込んだ灯りの瓶詰は、全部で五個。合計、二万ルルで買い取ってもらうことができた。
店内の商品には値札がついているので、システィナはそれを確認しながら必要なものを選ぶことにした。
「まずは、瓶詰の材料!」
これを得るため村に来たと言っても過言ではない。システィナは目をキラキラ輝かせながら、瓶詰の材料になるものを見ていく。
「魔石は大事でしょ、それから……ウルフの毛束に、温感石と冷寒石、マンドラゴラの葉。あ、薬草もある! でも森でも採取できるかな……? あとは、ネズズの心臓!? わたしが解体できなかったやつだ。そうだ、解体用のナイフも必要だよね。心臓は……今は上手く保管できないからまた今度にしよう」
独り言を呟いているがとっても楽しそうに見ているシスティナに、店主とセリオは顔を見合わせて笑う。
「嬢ちゃん、買ってくれるのは嬉しいが……それ以上は、お金が足りなくなるんじゃないかい?」
「え? あっ! ごめんなさい、わたしったら。欲しいもの全部と思って」
しかしお金は有限どころか二万ルルしかない。システィナは泣く泣く魔石を始め、すぐに使わないものを手放すことにした。
「解体用ナイフも売っているが……」
「それは絶対欲しいです!」
「ある程度いいものを持ちたいなら、一万二〇〇〇ルルだ」
「いちまんにせん……!?」
解体ナイフだけで、持ち金の半分以上を使ってしまうことになる。さらに材料をあきらめなければ難しいだろう。
「一応、三〇〇〇ルルの解体ナイフもある。が、そんなにいいものじゃない。お嬢ちゃんはこれだけの瓶詰を作れるんだ。ある程度いいものを買って、大事に使ったほうがいいと思う。もちろん、強制はしないが……」
「そのナイフにします。お勧めしてくれて、ありがとうございます」
システィナが笑顔で即答したのが嬉しかったのか、店主は砥石など手入れ用品をおまけでつけてくれた。
「わ、ありがとうございます!」
「あとは肉だったな。私が選ぼうか?」
そうしなければ、店主はシスティナの予算があっという間に足りなくなってしまうだろうと思ったからだ。間違いなく、システィナは瓶詰作りの材料を優先させるだろう。しかし店主からすれば、絶対に肉の方が大切だ。
店主はシスティナにいろいろと質問をしてきて、必要なものをすべて揃えてくれた。
購入したものは、解体用ナイフ、ウルフの毛束、蝶の羽、グリズリンの爪の欠片が瓶詰関係のもの。それから肉を含む食料品、野菜の種、石鹸、タオルが生活用品。そして「おまけだ」と店主がくれた袋が一つ。
「ありがとうございます! これはなんですか?」
システィナが不思議そうに袋を覗き込むと、店主は「クッキーだ」と中身を教えてくれた。
「ええ、俺にもくれよ!」
「お前はいつも食べてるだろ」
「ちぇー」
二人のやり取りを見て、システィナはなるほどこれは食べ物なのだと理解する。袋の中から一つ取り出すと、丸い形の素朴なクッキーだった。
そしてパクリと、クッキーにかぶりつく。
「………………!!」
「どうしたんだシスティナ、そんなに驚いて」
目をぱちくりさせながらクッキーを食べるシスティナに、セリオが笑う。しかし次の瞬間、システィナの大きな瞳から涙がポロポロ溢れ出したのを見てギョッとした。
「ちょ、大丈夫か!? 泣くほど不味かったのか!?」
「失礼なことを言うな、不味いわけないだろう」
セリオの言葉に店主が冷静に反論しつつも、急いでカウンターから出てシスティナの前に行ってしゃがんだ。目線を合わせた店主が、システィナに「どうした?」と優しく声をかける。
自分が泣いたせいで二人に迷惑をかけてしまったと、システィナは焦る。が、涙はそう簡単に止まるものではない。
「えと、えっと……」
「ゆっくりでいい。大きく息を吸って、ほら、吐いて……深呼吸だ」
店主の言う通り、システィナは深呼吸を繰り返して自分を落ち着かせた。普段は瓶詰のことにばかり感情が動いていたので、食べ物で自分の感情が揺れ動いたことに驚いた。
「こんな美味しいの、初めて食べました」
「――……」
この答えには、店主もセリオも驚いた。
クッキーは素朴で、よくいえばありきたり。田舎でも食べられる程度のおやつで、泣くほど感動するものではないのだ。
「……せっかくだ、飯も食べていくといい。うちのかみさんが作る飯は、美味いんだ」
「え……」
店主の言葉にシスティナは驚いたけど、急いで頷いた。
早ければ今日の夜くらいに、ちょっとプロローグなど足したりして中身整理しようと思っております……!(話数はそのままで中身を変えます)
変更したらお知らせします。




