6話
太鼓の音が轟き、豊臣方の先鋒が忍城へと押し寄せた。槍衾が揺れ、鬨の声が大地を震わせる。
「長親殿、敵が来ます!」
正木丹波守の声が広間に響いた。家臣たちは慌ただしく持ち場へ走り、雑兵たちも武具を手に取る。
栗田は胸の奥で呟いた。
――ゲームなら「迎撃」コマンドを選べば済む。兵力差も数値で見える。
――カーナビやスマホ地図があれば、敵の布陣を一目で把握できるのに。現実は伝令が駆けて来るまで待つしかない。
――ドローンや監視カメラがあれば、敵の動きをリアルタイムで見られるのに。現実は城壁から目視するしかない。
城門前では酒巻靱負が槍を構え、敵兵を迎え撃った。力強い突きで数人を倒し、雑兵たちを鼓舞する。
「のぼう様のために!」と叫ぶ者もいたが、それは鬨の声ではなく、必死に自分を奮い立たせる小さな叫びだった。
甲斐姫は甲冑をまとい、城壁の上から弓を放った。矢は正確に敵兵を射抜き、周囲の兵を驚かせた。
「長親、見ていてください。私は戦います!」
その声は凛々しく、栗田の胸を射抜いた。映画ではこの瞬間に彼女が自分に心を寄せるはずだった。だが現実の彼女は冷ややかで、ただ戦場を見据えている。
敵兵が城門に迫り、火矢が飛び交う。城内は混乱し、民衆の悲鳴が響いた。
――非常食や保存食があれば兵糧の心配は減るのに。現実は米俵と火の管理に追われる。
――拡声器やマイクがあれば、一言で民衆に指示を伝えられるのに。現実は声が届かず、混乱が広がる。
栗田はただ立ち尽くし、何もできない。
「……便利な時代に生まれていたはずなのに」
場違いな呟きが、戦の音にかき消された。




