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エピローグ
泥にまみれた戦の日々。和睦の報せに従い、忍城は開城し、成田勢は城を去った。
悩む殿として最後まで立ち尽くした長親――その姿のまま、世界はふっと揺らいだ。
目を開けると、公園のベンチだった。石田堤を見に来て、うとうと眠っていたのだ。
夢だったのか。だが、あまりに生々しい。
甲斐姫の声も、民のざわめきも、まだ耳に残っている。
その日の夜、彼女に何気なく話してしまった。
「甲斐姫は綺麗だった、惚れかけた」
ぱしん、と頬を叩かれた。
「何言ってるの!」
痛みと笑いが交錯する中で、長親は小さく呟いた。
「でも、まぁ、これが幸せなんだな」
夢の中で「浮き城」として耐え抜いた記憶は、現実の温もりに溶けていった。
物語は閉じ、日常が続いていく。




