#008 セレーナは自由経済都市リベルタで冒険者になった
クロムの森で私の死亡を偽装したあと、私とカイルはここセグレイト共和国にある海沿いの街リベルタへとやって来たのだ。
ここまでの旅路は3日間歩きっぱなしではあったが楽しいものだった。
まあ何度か魔物に襲われることもあったけど⋯⋯私の魔法とカイルの剣で危なげなく切り抜ける事が出来たのだった。
「なんだか不思議な匂いね!」
「これは潮風の匂いさ、海が近い街だからね!」
そうカイルが教えてくれる。
そしてこの街への関所を通過するのだが⋯⋯。
「君たちは帝国からの旅人かね?」
「はい、そうです!」
「俺たちこの街で冒険者になりに来たんです!」
そう門番の人に説明する私達だった。
「なら君たちは成人前でいいんだな?」
「はい! 俺たちまだ加護を授かってませんから!」
そうカイルが説明している。
「なら問題なし。 ⋯⋯まあがんばれ、坊主に嬢ちゃん」
「ありがと、おっちゃん!」
「がんばります!」
そう門番の人にも応援してもらった。
これはカイルから事前に聞いていた話だけど⋯⋯。
女神様に加護を授かることができるのは成人した帝国民だけらしい。
そして加護をもった帝国民はそう簡単には他国に移住が出来ない決まりらしいのだ。
これがカイルが早めに帝国を出てこのセグレイト共和国に来た理由だった。
そんなカイルの夢は、今は帝国に住んでいる両親を連れだす事だった。
これは一応可能らしい。
もしもカイルのご両親がとんでもない加護を持っているのなら不可能なんだけど⋯⋯そう大したことないありふれた農家や猟師の加護なので多少のお金で移住は可能らしいのだ。
「よしセレーナ! すぐにギルドへ行くぞ!」
「その前に宿を見つけた方が良くない?」
「これからその宿とギルドを往復する毎日なんだから、先にギルドの場所を知っておいた方がいいんじゃないかな?」
「なるほど⋯⋯それもそうね」
私はカイルの計画性に感心する。
正直頼りになる男の子だカイルは。
1人で城を飛び出した無計画な私とは大違いだ。
こうして私達はこの街の冒険者ギルドの建物を目指すのだった。
私はギルドへ向かう道すがら辺りを観察する。
「人が多い街ね。 ⋯⋯それに獣人族もふつうに歩いているのね?」
「そうだね。 まあ帝国くらいじゃないかな? 人間族至上主義の国なんかはさ」
そうなのだ。
私達が今まで暮らしていた帝国では獣人族は卑しい種族という事になっていて基本的に居ないのだ。
居るのは奴隷として扱われる者くらいだろう。
「ここはいい国なのね」
「そうだな」
私の中の今までの常識が変わっていく。
でも私はこっちの方がいいと思ったのでこの国が気に入ったのだった。
「おいセレーナ見えたぞ! あの建物じゃないかな?」
「うん、カイル! がんばろうねこの街で!」
「ああ!」
こうして私達はこの街の冒険者ギルドの扉をくぐるのだった。
そこは雰囲気が変わったと思う空間だった。
「ん⋯⋯? 新顔か?」
そう私達を観察してくる人達が居る⋯⋯。
おそらく彼らがここの冒険者なのだろう。
「セレーナ、堂々としてればいいんだよ」
「そうね」
カイルは頼もしい。
私1人だったらきっとうろたえていただろう。
「いらっしゃい、リベルタの冒険者ギルドへようこそ。 どんな御用かしら?」
そう優しく話しかけてきたのは受付カウンターに座っている青い髪のギルドの受付嬢である。
「耳が尖っている! あなたエルフ族?」
そう私は尋ねる。
「私は受付嬢のノインです。 ハーフエルフよ」
そうなんでも無いように受け応えする彼女だった。
これも帝国ではまず見られない光景である。
帝国ではエルフを森の田舎者とさげすんでるし、しかもハーフエルフなどさらに下に見るのだから。
「あなたはこの街でひどい目にあってないの?」
そんな私の質問は一瞬このギルド内に不穏な空気を作った。
「あなた達⋯⋯帝国から来たのね。 ええ、この国では私みたいなハーフエルフでも普通に働ける素晴らしい街よ」
そう堂々と誇りをもって答えるノインさんだった。
「やっぱいい国だなここは! 来て正解だな!」
「うん」
そう私達も答える。
「あら? 帝国からの人なのにエルフに偏見が無いのね?」
「そういう国だとは知ってましたが⋯⋯私はそういうの嫌いだったので」
「俺はエルフとか会った事も無いし」
そうあっけらかんと言う私達にノインさんは笑顔で答える。
「いいことよ。 偏見に囚われずに自分の価値感を大切にすることは」
なんとなく私はこの街が好きになる予感がしたのだった。
「それで俺たちこのギルドで登録したいんだけど⋯⋯」
「新規登録者ですね? ではこの紙に名前を記入してください」
そう申込用紙を差し出すノインさんだった。
「む⋯⋯名前か」
「もしかしてカイルって字が書けないの?」
帝国での習字率はそんなに高くないからなあ⋯⋯カイルは平民だし。
「いや、さすがに自分の名前くらいは書けるさ!」
そうムキになるカイルだった。
これはたぶん名前くらいしか書けないのだろう⋯⋯恥をかかせないようにしないと。
そして私達は紙に自分の名前を記入する。
⋯⋯そして。
「その次にあなた達の『職業』を記入してね」
ふむ⋯⋯『職業』か。
これは一般的な農家だとか狩人とかの意味ではない。
このギルド内で使われる職業とは自分がどんなタイプの能力を持っているかという事だからだ。
「⋯⋯書かないと駄目ですか?」
そう私は聞く。
「べつに書かなくてもいいけど、仲間を作ったりギルドからの指名以来の対象にならなくなったりとかデメリットは多いわよ?」
そうノインさんがアドバイスしてくれる。
「じゃあ俺は剣士だな。 ⋯⋯セレーナはどうする?」
⋯⋯どうしよう?
バカ正直に「私⋯⋯聖女です」なんて書くわけにはいかない。
なぜなら『聖女』とはほとんど帝国国内でのみ活動を許される職業だからだ。
一般的に回復魔法はほとんど出回っていないらしい。
回復魔法とは帝国の教会で生まれた時から修業をつけた特殊な人物か、またはそういった加護を授かった人間だけの職業らしい。
私は加護じゃなくて修行でだけど⋯⋯。
「私は⋯⋯『魔法使い』で」
まあ嘘ではない。
攻撃魔法も少しは使えるし、ここでは回復魔法のことはいちおう伏せておこう。
「それでお願いします!」
そう淀みなく答えるカイルだった。
彼は帝国での聖女の扱いを知っているので私の嘘を察したが何も言わないでくれているようだった。
カイルは字は書けないかもしれないがバカではない。
まあ世の中には賢いはずなのにいつもバカみたいな事ばかりしでかす人も居たからなあ⋯⋯。
私はちょっとだけ元婚約者を思い出すが⋯⋯うん、もう忘れようあんなの。
「カイル君は剣士。 それでセレーナちゃんが魔法使いなの?」
それを聞いたギルド内の冒険者たちが驚いた。
「嬢ちゃん魔法使えるのか!」
「どのくらい使えるんだ?」
「どうだ? 俺のパーティーに入らないか!」
そういきなり詰めかける人達だった!?
「落ち着けお前ら! 新人相手にみっともない!」
「「「⋯⋯はい」」」
けっこうハッキリと言い聞かせるノインさんと⋯⋯いきなりおとなしくなる大人の冒険者たちだった。
「なんかノインさんって実はコワイ人なのかな?」
「⋯⋯かもしれないわね」
そう私とカイルもヒソヒソと話す。
「そんなことありませんよ! ほら私はハーフエルフでしょ? ここのギルド歴が長いのよ! だから⋯⋯その⋯⋯ね!」
そして冒険者の1人がポツリとこぼした⋯⋯。
「俺の登録の時も今のまんまの姿で居たんだぜ⋯⋯ノインの姉さんは」
その冒険者はどうみても30歳は越えてそうなおじさんだった。
「そうなんだ⋯⋯」
てことはノインさん⋯⋯見た目は若いけどかなり⋯⋯⋯⋯。
「余計な事いわないの! ⋯⋯オマエラすこし黙れ」
「「「⋯⋯」」」
それだけで黙るおじさん達だった。
私とカイルは目と目で通じ合う。
(ノインさんを怒らせるのは⋯⋯)
(⋯⋯ぜったいにやめようね)
こうしてやや混乱もあったけど私とカイルのギルド入会は無事にすんだのである。
⋯⋯と思っていたら。
「それでセレーナちゃんには魔法測定を受けて欲しいんだけど?」
「魔法測定?」
聞きなれない言葉にこのギルドの空気が変わったのを私は感じるのだった。
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