#007 アドミス皇子はセレーナの死亡を確認し喜ぶ
「まったく⋯⋯なんてこった」
あのセレーナが僕のババアだったなんて⋯⋯。
そんなのと僕との婚約を破棄したのはナイス判断だったのだが母上に叱られてしまった⋯⋯。
それというのもセレーナが貧乳だからである!
もっとこう⋯⋯ムチムチぷりんとしていたら側室くらいにはしてやったというのに、あれじゃあな⋯⋯。
「あの⋯⋯アドミス様! どうでしたか!」
「あ⋯⋯ロザンナか⋯⋯」
忘れてた⋯⋯ロザンナを待たせていたのを。
予定では母上にロザンナとの結婚を知らせてから紹介するつもりでここに待機させていたんだ。
「どうしたんですかアドミス様? まさか⋯⋯私達の結婚を反対されたんじゃ?」
「あーそれは無い。 結婚は認めてもらったよ」
まあ僕の恋愛は自由だと言質はもらったも同然だからな。
ようするにあのセレーナとの間に子供さえ作れば⋯⋯。
はあ⋯⋯僕は思わずため息が出る。
「どうしたんですかアドミス様? 元気ない?」
そう僕を見つめるロザンナからやや視線を落として⋯⋯僕は元気になった!
やっぱ女は胸だな!
「いやちょっと問題が発生してな⋯⋯セレーナを探さないといけなくなった」
「⋯⋯なんで!? あんな女どうでもいいじゃない! 私が居るのよ!」
「ああ、その通りだ! でも母上に言われてしかたなく⋯⋯」
僕はさっき母上に言われたことをロザンナに説明した。
「なんですって!? あのセレーナが初代皇帝の娘!?」
「そうらしい⋯⋯知ってたのかロザンナ? アレは大聖堂ではどう扱われていたんだ?」
僕はセレーナの事はこの城に呼びつけた時しか知らないからな⋯⋯興味も無かったし。
「⋯⋯セレーナはずっと毎日修行ばっかりでしたね。 住んでる部屋も薄汚い屋根裏部屋で」
「それであの程度の聖女なのか? やっぱ才能無いんじゃないかな?」
「そうですね! 私なんてロクに修行しなくてもこの通りの大聖女なみの力ですからね! 才能が違うわ!」
やっぱそうだよな⋯⋯僕がロザンナを選んだのは間違いなかったな!
「やっぱり僕はロザンナと結婚する! そのためにもセレーナにはあんな口約束じゃない真の婚約破棄を言い渡さないと!」
「素晴らしいわアドミス様! そうよ! あのセレーナに引導を渡さなきゃね!」
こうして僕と愛するロザンナの意見は一致した。
なのでセレーナの行方を捜そうとしたのだが⋯⋯。
「それでセレーナはどこに居るのかわかったのか!」
僕の下に城中の騎士が報告に馳せ参じる。
それでわかったことは⋯⋯。
「はい殿下! セレーナ様は──」
「様などつけんでいい!」
「⋯⋯はい、セレーナは城を出た後⋯⋯この帝都からも出て行ったと門番から報告がありました」
「なに!? じゃあ大聖堂にも戻っていないのか!」
「はい⋯⋯そのようで」
「なぜ引き留めなかったんだ!」
「その⋯⋯殿下がどこへでも行くがいいと⋯⋯おっしゃっていたので⋯⋯」
「この愚か者め!」
「申し訳ございません殿下!」
⋯⋯まったく使えない奴らめ。
これだから愚民は使えんのだ。
やはり優秀な僕が皇帝となって導いていかんとこの国の未来は無いな。
「ただちにセレーナを追跡しろ!」
「我々が⋯⋯ですか?」
「あたりまえだろ!」
「ですが殿下⋯⋯我々栄光ある正騎士団の役目はこの城の守護であり城外での活動は不向きです!」
「む⋯⋯それもそうだな。 では向いている者を集めて追跡隊を編成しろ!」
「はっ!」
こうしてようやくセレーナの追跡が始まったのだった。
まったくノロマな奴らめ⋯⋯。
そしてようやくノロノロと集まったのが⋯⋯。
「こんな平民の兵士ばっかりかよ⋯⋯」
そう⋯⋯普段は街の警備や魔物退治くらいしかできない無能な下級の兵士たちだった。
「あの⋯⋯アドミス殿下。 私たちは一体なにをすればいいのでしょうか?」
まったくイチから教えなければ何もできん無能共め⋯⋯。
「僕の元婚約者のセレーナが脱走した! それを追うのがお前たちの仕事だ!」
そう言うとざわめきがおこる。
「おい⋯⋯セレーナ様が逃げ出したってよ」
「まあアレが婚約者じゃな⋯⋯」
「逃げ切ってくれ⋯⋯俺たちの女神よ」
⋯⋯くそ。
セレーナの奴こんな下っ端にばっかり慕われやがって⋯⋯。
そういやセレーナは訓練しているこの弱っちい兵士共の怪我の手当てをして人気稼ぎをしていたからなあ。
まったく無駄な真似を⋯⋯こんな愚民の支持をいくら集めようが国を動かすのは名誉ある貴族様なんだからな!
そこへいくとちゃんと貴族社会でコネクションを構築し派閥を形成して管理するロザンナは素晴らしい。
それでこそ僕のお嫁さんにふさわしい行動力だ!
「いいかお前ら! セレーナが脱走した! どこへ逃げると思う?」
そう僕が怒鳴るとようやく渋々と答えが返ってくる⋯⋯まったくもっとキビキビしろ!
「セレーナ様が逃げるのなら⋯⋯セグレイト共和国かと?」
「セグレイト共和国? あの下品な国にか?」
あの国は自由経済とか言って貴族の誇りもなにもあったもんじゃない無秩序だからな。
わが帝国家に忠誠を誓う貴族ばかりの規律正しいゼルベルク帝国とは品格が違う。
「よし! では追跡せよ!」
そう命令したのだが⋯⋯。
「おいどうする?」
「命令だからしかたないが⋯⋯」
「正直気が進まない⋯⋯な」
「いいからさっさと動け!」
まったくイライラさせる奴らめ。
こうしてようやくセレーナ追跡が始まったのだが⋯⋯。
僕まで一緒に行くことになろうとは思わなかった。
「くそ⋯⋯この高貴なる僕が陣頭指揮など⋯⋯」
そう馬に乗ってこの無能な兵士共を見張らねばならん有様だった。
そうでもせんと働かん給料泥棒どもめ⋯⋯。
「ここからセグレイト共和国への直線上だと⋯⋯クロムの森か?」
僕は地図を見ながらセレーナの行動を予測する。
セレーナはバカだから絶対にこの森を突っ切るだろう。
「おい! 誰かこの先のクロムの森を案内できる奴はいないか!」
そう僕は地面を這いつくばり歩く兵士共に命令する。
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯。 クロムの森は俺の地元ですが⋯⋯」
「よし! 先頭に立て!」
「俺がですか?」
「道案内くらいできるだろう、お前でも!」
「⋯⋯はあ、何で俺が」
そう愚痴を言いながらその兵士が道案内をするのだった。
おかげでただでさえ遅い行軍がもっと遅くなってしまったではないか。
「あの⋯⋯聖女様。 俺たちに回復魔法を⋯⋯」
「はあ? なんで私があんた達の体力を回復してあげないといかないのよ?」
そう僕についてきたロザンナはきっぱりと断る。
そうだぞロザンナ! お前の回復魔法は高貴なる者にのみ使う神の御業よ。
このグダグダの一行の中でまともな判断のできる者は僕とロザンナだけのようだな。
こうして長い時間をかけてようやくクロムの森へとたどり着くのだった。
そしてこの薄気味悪い森で探索をはじめて半日が過ぎた頃⋯⋯。
「で⋯⋯殿下!」
「ふわぁ⋯⋯なんだ?」
僕は愛するロザンナの膝枕で優雅に昼寝していた。
これが愚民の兵と優秀な皇子の立場の違いよ⋯⋯。
「これを⋯⋯発見しました」
その兵士は震える手でソレを僕に差し出したのだった。
「なんだ? まったく汚らしい布切れを、よくも僕の前に出せたな」
「アドミス様! これは聖女服ですわ! あのセレーナの着ていた!」
そう嬉しそうに僕に教えてくれるロザンナだった。
素晴らしい慧眼だなロザンナ、この汚いだけの布切れの正体を見ぬくとは。
そのセレーナの服とやらには獣の毛や人の血らしい跡が残っていた。
⋯⋯つまりセレーナは今ハダカで怪我人という事か?
「おっほっほ! セレーナはどうやら魔物に食われて死んだようね!」
「そうか! なるほど!」
さすがロザンナ、僕よりわずかに早くその真実に気づくとはやはり僕の真の婚約者だ。
「くっくっくっ。 セレーナが死んだのなら仕方ない! さあ引き上げじゃあ!」
そう喜んで帰ろうとしたその時だった。
「で⋯⋯殿下! 森で裸の銀髪の娘が!」
「なにぃ!?」
なんだと? 生きていたのかセレーナ!?
「ちっ⋯⋯まったくしぶとい」
そうロザンナも言う。
僕も同じ意見だった。
そして兵士に連れてこられたその薄汚いガキは⋯⋯。
「あううううぅ~」
そう唸るだけの野生児だった。
しかも薄汚い獣人族の娘ではないか!
その証拠に犬のような耳が頭にある。
「⋯⋯は? コレのどこがセレーナだと言うのだ! いくらセレーナが貧相な女とはいえこんな幼児ではないわ!」
「いえ! べつにセレーナ様だと思って連れて来たわけでは⋯⋯」
「言い訳はおよしなさい! そんな汚いガキはさっさと捨ててきなさい!」
「そうだそうだ! ロザンナの言うとおりだ!」
「こんな子供をこの危険な森に放置するのですか!?」
「⋯⋯なんだと貴様! このアドミス様の命令が聞けんのか!」
「⋯⋯はっ! ただいま!」
そう渋々と子供を連れていく兵士だった。
まったく無駄な時間を⋯⋯。
⋯⋯だが!
「パパっ!」
「んがっ!?」
そう僕の事を「パパ」とか抜かすクソガキだった。
「言うに事欠いて僕にパパだと~?」
「そうよ! アドミス様のお子はこの大聖女ロザンナが産む子だけなのよ!」
そうだそうだ!
そして兵士を意外なほど力強く振り切って僕に縋りつくそのケモ耳女児を僕は!
「きゃんっ!」
かっこよく蹴り飛ばすのだった。
「素敵アドミス様! このクソガキ! もう私達に近づくんじゃないわよ! おっほっほっほ!」
そして恨めしそうに僕を睨みつける汚いガキだった。
「⋯⋯ちがうパパじゃない。 ママと似た匂いだったけどパパじゃない」
「あたりまえだ! この僕がお前みたいな浮浪児の父のわけがないだろ!」
こうして僕はあのセレーナの死亡を確認して城へと戻るのだった。
あのクソガキを森へ置き去りにして。
後日⋯⋯報告ではあの時の兵士共は貴重な食料を森に忘れて帰って来てたらしい。
まったく使えん無能な兵士共め⋯⋯。
しかしまあいい、あのセレーナが死んだのだからな!
そして喜ぶ僕のセレーナの死亡報告は母上に落胆させたようだ。
「そう⋯⋯セレーナは死んだのね」
「ええ母上!」
「⋯⋯もういい、下がりなさいアドミス」
「はい母上! これからロザンナとの結婚式の準備を始めますので!」
「⋯⋯好きにしなさい」
こうして僕は意気揚々とロザンナとの結婚の準備を始めるのだった。
「セレーナは死んでないわね」
この帝国における実質的な宰相であるアドミスの母アグネスはそう考えていた⋯⋯。
「⋯⋯もしもセレーナが死んでいるのであればこの国から加護の力が消えるハズだから」
アグネスは諦めていない⋯⋯セレーナの生存を。
そしてこの帝国に連れ戻すことを⋯⋯。
「この帝国の未来のためにセレーナ⋯⋯あなたは絶対に必要なのよ」
今この帝国には崩壊の兆しが始まりつつあったのだった。
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