#006 皇后アグネスはアドミス皇子をはげしく叱責する!
「この大馬鹿者め!」
そう思わず持っていた紅茶のカップを息子の顔面に投げつける私だった。
「んな!? 熱っ!」
「ああ!? アドミス皇子様!?」
あわててメイドがアドミスの顔を雑巾で拭いていく⋯⋯まあとっさで慌てていたんだろう。
「うわぁ! これ雑巾じゃないか! 僕の美しい顔に貴様! 何をする!?」
「申し訳ありません! ついっ!」
そう頭を下げて謝るメイドだった。
「貴様! このゼルベルク帝国の皇子であるこのアドミス様の顔に雑巾など──」
「黙りなさいアドミス! それとあなたは下がりなさい」
「はい! 申し訳ございませんでした!」
そううつ向いたまま逃げるようにこの私の執務室をでていくメイドだった。
⋯⋯まったく災難だったわねあの子も。
「おい逃げるな! まだ話は──」
「話はこっちよアドミス!」
「⋯⋯はい母上」
そう母親である私にビビる息子だった。
「⋯⋯で、なんで呼び出されたのか、わかるかしらアドミス?」
「わかりません! でも僕の方も母上には報告したいことがあって!」
「まあいいでしょう、貴方から話しなさい」
⋯⋯自分で罪を感じてここで謝るようならまだ救いはあるのだが。
「僕! ロザンナと婚約しました! その事を昨夜の夜会で発表しました!」
「大馬鹿者め!」
そうまた怒鳴りつける私だった。
さっきのメイドに紅茶のおかわりを頼んでおけばよかった⋯⋯。
おかげでもう投げる物が無い。
「なぜ僕が怒られるのですか母上に!? この僕の婚約者が決まってめでたい話なのに!」
「お前の婚約者はセレーナだろ! この私の用意した!」
「ああセレーナか⋯⋯婚約破棄してやりましたよ!」
「なんでそんな真似をしたの!」
「だって僕の妻になるのがあんな平民の貧相な小娘じゃあねえ⋯⋯」
「それが理由なの?」
「そこへいくとロザンナはナイスバディだし僕の妻にふさわしい⋯⋯ムフフ」
「胸の大きさで皇帝の妻が勤まるか! この馬鹿者!」
だがこのバカ息子は反論する。
「重要ですよ母上! 母上だってその体で父を篭絡したから皇后という立場になったんじゃないですか!」
「⋯⋯それ本気で言ってるのアドミス?」
「当たり前でしょう? 結婚相手を選ぶには最重要ポイントですよ、これ常識!」
⋯⋯まったく頭が痛い。
なんでこんなバカに育ってしまったのかしらアドミスは⋯⋯。
「まあ乳の大きい女に魅力を感じる貴方は尊重はするけど」
「でしょ! だからロザンナを選んだ僕は優秀な未来の皇帝!」
「だからといって結婚相手の自由があると思うなよ、バカ皇子!」
「バカ皇子!? 母が息子に言っていいセリフですか! 僕は褒められて伸びるタイプなんだから叱らないでよ母上!」
「そうよ! だから今まで叱らなかった事を後悔してるわ!」
「でも⋯⋯父上は「皇帝には恋愛の自由がある」って言うし、父上の浮気は母上も公認でしょ?」
「ええそうよ! 今もあの人は浮気相手のところでよろしくやってるわよ! 公務を私に押し付けてね!」
そして神妙で真剣な顔をするアドミス⋯⋯。
「僕は父上は尊敬してるけどさ⋯⋯やっぱり浮気は悪いと母上を見てると思ったんだよ。 だからセレーナとはきっぱり婚約破棄してロザンナ一筋に決めたんだ! それの何が悪い?」
「それが馬鹿だと言ってるのよ! たしかに皇帝の権力で恋愛は自由よ、浮気も自由! でもね! ⋯⋯皇帝の結婚は政治なの! だから結婚相手を選ぶ自由は無いのよ、このスカタン!」
「⋯⋯じゃあ母上は父上が浮気してても良かったんですか?」
「あの人⋯⋯政治にはまったく向いてないからむしろありがたかったわ。 ⋯⋯この帝国を立て直すのにはね」
「まあたしかに母上の政治手腕は認めますが⋯⋯父上が邪魔? 皇帝なのに?」
「この国にとって皇帝なんて世継ぎを作る以外期待してないのよ⋯⋯今となっては」
まあ理由があるんだけどね。
「なら僕は違う! ロザンナとたくさん子供作って立派な皇帝に僕はなりますから!」
「それが無理だと私は言ってるのよ!」
まったく何も理解していないバカ息子め⋯⋯。
「なぜ無理なんですか? 僕とロザンナの力を合わせればこの帝国⋯⋯いや世界征服も夢じゃない!」
「夢? 妄想は寝てるときにしなさい」
「ひどいな⋯⋯子供の夢を笑うなんて母親なのに⋯⋯」
すねるなバカ息子! それがもうすぐ15歳になる男の態度か?
「いいアドミス? この国の皇帝家には普通じゃない、特別な血統魔法があるのよ」
「知ってますよ! それで父上もこの帝国を導いている! 僕はまだ目覚めてないけどロザンナとの愛の力で覚醒するから期待してください!」
「はあ⋯⋯それが期待できないからセレーナとの婚姻だったのに⋯⋯」
「⋯⋯なぜ母上はそこまであの貧相なセレーナに拘るのですか?」
やっと話を聞く気になったようね。
それと⋯⋯まだ成人していないセレーナが貧相って見切りをつけるのは早すぎるでしょ?
「いいアドミス、よく聞きなさい」
「はい母上」
「⋯⋯現在の皇帝家の血統魔法はね⋯⋯どんどん血が薄まってるのよ。 だからたいして役に立たなくなっているの」
「そうなんすか?」
「貴方の父親である今の皇帝だってその血統魔法を発現できるのは良くて年に1回くらいなのよ」
「⋯⋯じゃあ僕はどうなるんです? ああ! 僕は天才だから期待大だな!」
「⋯⋯だといいけどね。 でもだからこそ私は皇帝家の血を濃くするためにあのセレーナを用意したのよ、あなたの婚約者としてね」
「セレーナを? あの娘がなんだというのですか? 血統なら公爵家で従妹のロザンナの方が濃いでしょう?」
「今の公爵家なんて皇帝家と大して変わらないくらい血が薄いのよ」
「じゃあセレーナなんて平民でもっと無価値じゃないですか!」
私は決心する、この真実をアドミスに伝える事を⋯⋯。
「いいアドミス、よく聞きなさい。 そして絶対に他言無用よ」
「はい⋯⋯母上」
「あのセレーナはね⋯⋯初代皇帝の娘なのよ」
「⋯⋯は?」
「貴方との血縁関係でいえば⋯⋯10世代くらい前の大叔母様ね」
それを聞き呆然とするアドミスだった。
そう⋯⋯セレーナとは数百年間の間、神殿で保存されていた巫女だったのである。
「あの母上? そんなババアと僕を結婚させる気だったんですか!?」
「そうよ、皇帝家の今後500年の繁栄のためにね」
「いやだよ気持ち悪い!やっぱり白髪ババアだったんだセレーナは! 僕の本能は正しかったんだ!」
「見た目は若いし血縁関係も10世代も離れていればほとんど他人よ!」
「そんなババアとの結婚なんて嫌だ! ロザンナがいい!」
「そのロザンナとは従妹でしょうが! セレーナよりもっと血縁が近いでしょうが!」
このバカの本能とやらはまったくアテにならない⋯⋯。
「でもだって⋯⋯ロザンナとは子供の時に結婚の約束もしてたし⋯⋯」
私は大きくため息をつく。
「だから恋愛は自由だって言ってるでしょ。 セレーナとの間に世継ぎさえ作ればロザンナといくら浮気しようが文句はないわよ」
いや文句は大いにあるが⋯⋯。
「いや⋯⋯でも⋯⋯だって⋯⋯男として誠実さが⋯⋯」
「いいからセレーナと結婚しなさい! いいわね! これは命令です!」
「⋯⋯」
その時のアドミスの様子が変だった。
不貞腐れているとかじゃなく困った感じだったのだ。
「わかったアドミス? セレーナと仲直りしなさい、いいわね」
「あ⋯⋯いや。 ⋯⋯⋯⋯セレーナは、その⋯⋯」
私は嫌な予感がしたのだった。
「ねえアドミス? セレーナは今どこに居るのよ? 大聖堂にちゃんと戻ったのよね?」
「いやセレーナは⋯⋯出て行ってどっかに行った。 行方は知らない」
私は視界がぐにゃりと歪んだのを感じた⋯⋯。
「⋯⋯追いかけなさい」
「え?」
「いいから追いかけなさいアドミス! セレーナを見つけて連れ戻すまで帰って来るんじゃありませんよ!」
「はい! 母上!」
こうして私の前から逃げ出すアドミスだった。
そして私は大きくため息をつく⋯⋯⋯⋯。
「もう嫌だこんな皇帝家は⋯⋯もう滅べばいいのに」
しかしそうもいかない。
この帝国の繁栄は皇帝家あってのものなのだから⋯⋯。
なんとしてでも次代に引き継がないといけないのだ。
「セレーナ⋯⋯なんとしてでも貴方はアドミスと結婚してもらいますからね」
まったく自分が嫌になる。
私だってそうやって無理やり皇帝に嫁がされた立場なのに同じことをするのだから⋯⋯ね。
「⋯⋯曇ってきたわね」
窓から見つめる青空には暗雲が広がり始めていたのだった⋯⋯。
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