#005 セレーナはここで死んだのだ!
私とカイルはあの小さな街を出て歩き出した。
そして歩きながら今後の旅の予定を立てる。
「これがこの国の地図さ! まあ俺の手書きだけどさ⋯⋯」
そうカイルが持っていた地図はわりと無茶苦茶な地図だった。
「えーと? 多少違うけど、昔チラッと見た事のある本物の地図とそう地形は変わらない⋯⋯かな?」
「セレーナは本物の地図を見たことがあるの!」
「ええ。 前に騎士団に同行して魔物退治の時の幕舎で見たことがあるわ」
「すごいなセレーナは! 本物の地図は国家機密だからね、俺みたいな庶民じゃ見ることも買うこともできねえよ」
「そうだったんだ」
カイルは物知りだな⋯⋯。
そう私は思った。
私の知識なんて大人たちに無理やり教え込まれた一部のものだけだからなあ。
それに比べてカイルは多少は間違ってても自分で調べて試行錯誤して⋯⋯がんばってる。
「それでさセレーナ! この街道を進んで⋯⋯このルートでセグレイト共和国を目指そうと思うんだ!」
そうテキパキと今後の進路を決めるカイルだった。
きっとこれまでにこの旅についての予行演習をなんどもしていたんだろう。
⋯⋯行き当たりばったりな私と違って。
「カイルに任せるわ! 私じゃなにもわからないし」
そう言いながらも私はカイルの地図を見ながら考えていた⋯⋯。
「そうだね、このクロムの森なんかは無理して通らない方がいいしね」
「クロムの森?」
「ん⋯⋯? ここさ」
そうカイルは地図にある森の位置を指さした。
そこは帝都とセグレイト共和国の直線上にある森だった。
⋯⋯その時、私は思いついた!
「ねえカイル! この森に寄りたいわ!」
「なんで? 獣も多くて危険な森なんだけど?」
そこで私は答えたのだった。
「その森で聖女セレーナが死ぬからよ!」
こうして私は計画をカイルに話すのだった。
そして私の計画に賛成してくれたカイルと一緒にこのクロムの森に立ち寄ったのです。
「⋯⋯薄気味悪い森ですね」
「だろ? だからあんまり寄りたくはなかったんだ」
そのカイルの判断は間違っていないと思う。
でも今回はちょっと寄り道したい理由があったからだ。
「とりあえず私を殺すのはどんな獣がいいかしら?」
「狼とかがいいんじゃないかな? あいつら群れで襲ってくるから危険だし⋯⋯」
そう剣を抜いて身構えるカイルだった。
「カイルは狼に勝てるの?」
「まあ1対1なら⋯⋯。 群れで襲われるとヤバイかもしれないけど、こんな危険を避けてたらいつまでたっても強い冒険者には成れないからな!」
そう覚悟を決めた男の子の目だったカイルは。
⋯⋯ちょっぴりかっこいい。
「私は防御魔法には自信があるけど⋯⋯攻撃魔法には自信が無いからなあ」
「そうなの? まあセレーナは聖女だし」
「私はもう聖女じゃありません!」
そう私とカイルは笑いあうのだった。
「まあお互いの力の確認はしときたいからね。 ⋯⋯俺のこの剣なら当てれば狼の首くらいなら一刀両断できる!」
「すごいねカイルは! 私なんか騎士団に無理やり連れてかれた魔物退治で援護の攻撃魔法も撃たされたんだけど⋯⋯当たっても大したことなかったからなあ⋯⋯」
「でも防御魔法は得意なんだろ?」
「ええ。 ドラゴンの炎だって弾けるわ!」
「⋯⋯凄すぎる。 それって狼ていどだと触れる事さえ出来ないんじゃ?」
「そうかしら?」
私は自分の強さをあんまりわかっていない。
なのでカイルの評価は私を安心させてくれる。
「ねえカイルは⋯⋯」
「しっ! 黙ってセレーナ!」
その油断ない動きにカイルが臨戦態勢に入ったと直感した。
「⋯⋯居るの? 狼?」
「うん⋯⋯気配がある」
「1匹だけ?」
「⋯⋯たぶん3匹くらいかな?」
3匹! それを言い当てるカイルは凄い!
「セレーナは俺の後ろを見張って!」
「うん!」
そうカイルの指示を聞いて私は防御魔法をいつでも展開できるように構えた。
すると目の前に狼が3匹現れたのだった!
「ホントに3匹!」
「セレーナ! 防御魔法を!」
「うん!」
襲い掛かる狼たち。
しかし私の放った防御魔法に阻まれて⋯⋯。
「キャウンッ!」
そう飛び掛かった狼は空中で魔法の壁に当たって弾き返されてのだった。
「とりあえず私の魔法は通用するみたい!」
「そうだね! セレーナ、タイミングを見計らって1匹ずつ入れる事はできる?」
「できるよ」
「じゃあそれでいこう!」
カイルの立てた作戦は私の防御魔法を使って狼と1対1で戦う状況を作る事だった。
「次! 入れるよ!」
私は襲い掛かる1匹の狼の接近だけを許した。
その狼をカイルは構えた剣で⋯⋯斬った!
「まず1匹!」
「すごいカイル!」
本当に一刀両断だったカイルの剣は!
昨夜見てて思ったけどやっぱりカイルの剣の腕は相当なものだと確信した。
「セレーナ次!」
「うん!」
私とカイルのコンビネーションで問題なく2匹目もやっつけた!
次は⋯⋯。
「ねえカイル! 最後は私にやらせて!」
「⋯⋯わかった、セレーナ」
私だって冒険者になるんだ!
カイルに守ってばかりじゃいけない。
自分の力でこのくらいの狼くらい倒せないと!
「切り裂け真空の刃! エアロカッター!」
私の放った風の魔法は⋯⋯。
少し離れた狼を一瞬でミンチに変えて!?
さらにその後ろにあった木を何本か斬り裂いて倒したのだった⋯⋯。
「⋯⋯私ってあんがい強かった?」
「すごいよセレーナ!」
そうカイルが誉めてくれた。
「ドラゴンにはまったく効かなかったんだけどなあ⋯⋯」
「そんなのと比べても⋯⋯」
どうやら私の実戦経験は偏ってるらしい⋯⋯。
うん⋯⋯今後の課題だねこれは。
こうして私とカイルの初戦闘は勝利で終わったのだった!
⋯⋯そして。
「さて、やりますか⋯⋯」
「そうだね」
私達は計画通り始めることにしたのだった。
私は持ってきていた聖女服をそのへんに投げ捨てて⋯⋯燻製肉なんかを何枚か乗せて置く。
「その肉、美味そうだな⋯⋯」
「ひとつ食べる? まだ腐ってないし」
そう私は持っていた燻製肉をカイルにも食べさせた。
「美味い! なんだこの肉は!?」
「お城の舞踏会に出てた料理をちょっともらっといたの」
後で食べようと思って持ち運べて保存のききそうなこの燻製肉をあの会場からちょろまかしていた私である。
「お城の舞踏会⋯⋯ホントにでてたんだなセレーナは」
「まあそこで婚約破棄されましたが⋯⋯」
「バカだよなあ皇子様って⋯⋯こんなかわいいセレーナを」
「私が⋯⋯なにカイル?」
「⋯⋯いや何でもない⋯⋯よ」
そこからそっぽ向いて話すのをやめたカイルだった。
⋯⋯まあいいや続けよう。
「⋯⋯やるか」
「そのセレーナ⋯⋯無理しなくても」
「⋯⋯⋯⋯えいっ!」
私は意を決して自分の手をナイフで斬って⋯⋯その流れる血を聖女服にかけたのだった。
「大丈夫? セレーナ⋯⋯」
「⋯⋯大丈夫、このくらいは⋯⋯⋯⋯痛いけど」
私は大急ぎで治癒魔法を自分の手にかけた。
あっという間に痛みは消えて傷も無くなった。
「すごいなセレーナの治癒魔法は⋯⋯傷跡がまったく無い!」
「これでも元聖女ですから」
こうしてこの場所に血まみれになった私の聖女服に燻製肉をトッピングして放置することにした。
「さて上手くいくかな?」
しばらく離れて待っていると⋯⋯血の匂いに誘われた小さなまだ子供の狼が燻製肉を食べ始めるのだった。
当然私の聖女服もボロボロに噛み切られていく。
「⋯⋯これでよし。 ここで聖女セレーナは死にました」
「ここまでする必要あったのかな?」
「⋯⋯帝国は私が生きてる限り追って来るわ。 たぶんこの森あたりまでは捜索にくるはずだから、これで誤魔化せると思う」
そう私は考えてこの場を後にするのだった。
でもまあ無駄な行動でもなかった。
この森での戦闘経験は私とカイルに確かな自信を与えたのだから。
「さあカイル! 目指すはセグレイト共和国よ!」
「ああセレーナ!」
こうして私達の旅は問題なく進んでいくのだった。
その頃の帝都ではどんな事が起こっているかなんてまったく知らずに⋯⋯。
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