#004 カイルと不思議な聖女
俺の名はカイル。
このゼルベルク帝国の端っこにある小さな街の少年だ。
そんな俺の夢はこの国の騎士になる事だった。
俺はまあ普通の男の子だからな、剣とか超かっこいいしステキなお姫様を守って戦う騎士にロマンを感じていたんだ。
しかし街に住んでいる年上の兄貴分が先にその夢を叶えて帝都へ行ってしまった。
でも俺もその後を追おうと剣の稽古を続けていたんだ⋯⋯しかし。
年に1回くらいその兄貴が里帰りしてきて⋯⋯だから俺は兄貴に騎士様ってどんなんだと聞いてみたんだ。
⋯⋯すると。
「俺が騎士? 冗談じゃないぜ! 俺のはただの兵士だよ、ただの街の警備兵さ」
「⋯⋯え?」
俺の想像するカッコいいマントをなびかせた騎士様じゃないのか?
「あーそういうのはさ、俺みたいな平民には成れないの。 貴族の息子とかのコネがある奴だけが本当の騎士として城にも入れるんだ」
「じゃあ兄貴は騎士じゃないの!? じゃあなんなんだよ!」
「⋯⋯ただの騎士様の雑用係だな。 ⋯⋯⋯⋯すまんなカイル、お前の夢を壊してさ」
俺はどうやら俺の夢の騎士様には成れないのだと、この時に悟った。
そんな俺の次の目標は冒険者になる事だった!
まあ今まで訓練してきた剣の腕も生かせるし⋯⋯農業は辛いからな、親の仕事を見てるとさ。
しかしこのゼルベルク帝国には冒険者ギルドが無い。
あるのはお隣のセグレイト共和国にだ!
「そうかカイルお前⋯⋯冒険者を目指すのか! なら早い方がいいな」
「なんで兄貴?」
「このゼルベルク帝国では15歳になると正式に戸籍登録されて、自由な職には就けなくなるからだ」
「そんな決まりがこの国にはあるのか!?」
「ああ⋯⋯14歳までの子供は死にやすいからな。 だから国が正式に登録管理するのが神殿での15歳の洗礼式なんだ」
15歳の洗礼式⋯⋯。
それはこのゼルベルク帝国の人が精霊様から祝福や加護を授かる大人になる儀式だ。
受け取る祝福や加護によってはその後の人生が大きく変わるからな⋯⋯。
「俺⋯⋯剣士の加護を貰いたかったんだけど?」
「まあ望んだ加護が貰えるとは限らんが、それまでの人生の努力や親からの遺伝とかである程度は貰える加護は決まってるらしいからな⋯⋯俺も剣士だったし」
「そうだよ! その剣士の加護さえあれば俺は冒険者にだってなれるさ!」
「その加護を受け取ったらもう人生の自由はないんだぞ?」
「⋯⋯そうだった」
「まあどういう選択をするのかお前の自由さ。 悔いの無いように選びなカイル」
「⋯⋯うん」
そう言い残して兄貴はまた帝都に戻っていったんだ。
そして俺はよく考えた。
俺には3つの選択肢がある事を⋯⋯。
1つめは親の職である農家を継ぐことだ。
貰える加護とはまったく関係ない生き方かもしれないけど時々畑を荒らす獣とか退治することもあるからなあ。
2つ目は15歳で加護を貰って帝都の兵士になる事だ。
憧れの騎士ではないけど農業よりはマシかもしれない。
そして3つ目は⋯⋯加護を貰わずその前に他国で冒険者になってしまうことだ。
「⋯⋯あと3年か。 それまでに決めないとな」
どれを選んでも剣の腕が無意味にはならない。
だから俺は親の農業を手伝いながらも剣の稽古は続けたんだ。
⋯⋯そんなある日の事だった。
俺の家の畑を野生の猪が襲った!
俺は普段の剣の腕を試すぜっこうの機会だと思い⋯⋯斬りかかった!
⋯⋯この練習用の木剣で。
「うわっ!? 折れたぁ!?」
考えれば当たり前の結果だった。
「危ないカイル!」
そう俺を身を挺して庇ったのは⋯⋯母さんだった。
その時に母さんは足を骨折したのだった⋯⋯。
この街にはろくな医者が居なかった。
頼れるのは月に一度だけ来る聖女の訪問だった。
この国ゼルベルク帝国では大聖堂で育てた聖女を使っての国民を癒す福祉がある。
だけどそれは高額の治療費と引き換えにだった。
「頼むよ! これで母さんの足を治してくれ!」
そう俺は今まで一生懸命に溜めた貯金をその赤い髪の聖女に差し出して頼んだんだ。
⋯⋯しかし。
「なにその汚いお金。 私さわりたくないわ! おっほっほっ!」
そう俺の手ごと蹴り飛ばす女だったその赤髪の聖女は⋯⋯。
「あーこんなつまんない仕事さっさと終わらせて帰りたいわー」
初めて俺は人を憎いと思った。
それ以来俺は⋯⋯聖女というものを、そしてその聖女というものを作り出すこのゼルベルク帝国を憎むようになったんだ。
「俺は決めた⋯⋯。 あんな聖女を作るような精霊様の加護なんか要るか! 俺は冒険者になる!」
そしていっぱい稼いでこの国から父さんと母さんを救い出そう⋯⋯そう決意したんだ!
そして俺は14歳になった。
もうすぐ俺は洗礼式を受けなきゃいけない。
だからその前にこの国を出る準備を進めていた。
「じゃあカイルの旅立ち前に美味いもんでも食わせてやらんとな!」
そう言い残して父さんは山に狩りに行ったきり⋯⋯帰ってこなかった。
「俺も一緒に行くべきだった⋯⋯」
この街での小遣い稼ぎのような仕事なんか休むべきだったのだ。
そう悔みながら街の前で待ち続けていたら⋯⋯帰ってきた!
「父さん! 無事だったのか!」
「ああ! 心配かけたなカイル」
良かった⋯⋯本当に良かった!
そう思っていると!?
ひょっこりと馬車から銀色の髪の女の子が降りてきたのだった!
しかもこの国の聖女服を着た女だった⋯⋯。
「なんだ父さん? その子は?」
その少女はなんと馬を治してくれた恩人だという。
しかも無償で!?
「そうなのか! ありがと! 俺はカイル! 君は?」
「⋯⋯セレーナです」
これが俺とセレーナとの出会いだった。
驚いたことにセレーナは教会を辞めて出てきたらしい。
しかも女の子なのに冒険者に成る気だという⋯⋯。
「大丈夫かこの子?」
俺はかなり心配だった。
しかしそのセレーナは母さんの足を完璧に治せるくらいの聖女だったのだ!
それは俺の持つ聖女のイメージを壊して⋯⋯いや元から持っていた俺の聖女のイメージそのものだった。
だから俺は決心した!
「俺は⋯⋯セレーナを守る騎士になる」
セレーナは聖女を辞める気らしい。
でもあのお人好しのセレーナがそう変わるとは思えない。
絶対にいろんな危険な目に会うに違いない!
俺なんかに何が出来るのかわからないけど⋯⋯やりたいんだ!
セレーナを守れるカッコいい騎士に俺は成りたい!
だから俺はセレーナと旅だつことにしたのだった。
そして俺とセレーナは街を出た。
「カイル! セレーナ! 達者でな!」
「いつでも帰ってきていいんだからね! 無理しないで!」
「ああ! 父さん母さん! 行ってきます!」
「行ってきます」
たった1人で旅立つつもりだった。
でもセレーナの存在がこんなにも俺に勇気と力をくれる!
そうだ! このセレーナが俺に加護をくれる精霊様だきっと!
「⋯⋯どうしたのカイル? じっと私を見て?」
「あ⋯⋯いや。 セレーナは可愛いなあ⋯⋯と?」
「カワイイ⋯⋯」
少しだけ照れて赤くなったセレーナは本当に可愛くて⋯⋯。
「その⋯⋯これからよろしくセレーナ」
「こ⋯⋯こちらこそカイル」
こうして俺とセレーナの、自由を目指す冒険が始まったのだった!
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