#031 セレーナと未来の勇者たち
あの戦いから1月が経った。
実はあれからずっと私の中に女神セレマーサと魔王ソルゾーラが入ったままだったのだ。
そんな私達は今はお城でのんびりと暮らしていたのだった。
『おいセレーナよ! 今度はそっちのケーキを食わしてくれ!』
『セレーナさん! 紅茶はダーヅリンでお願いしますわ!』
「やかましい! そんなに毎日毎日ケーキばっかり食ってたら太るでしょ!」
そう⋯⋯私の中の女神と魔王は好き勝手に現代生活をエンジョイしていたのだった。
まあ平和と言えば平和かもしれない。
『この時代がここまで美食に満ちていたとはのう⋯⋯滅ぼすのはもうちょっと様子を見てからじゃな』
そう魔王が堕落するのに1週間もかからなかったのだ。
まあそんななんだかんだで私と私の仲間たちはお城で贅沢三昧な日々だった。
そして私は中庭で優雅なティータイムをルナと満喫しながらカイルの特訓をながめていた。
「ふ⋯⋯やるじゃないかカイル!」
「まだまだですよ俺は! もう一本お願いしますシェリルさん!」
なんかあれからカイルはシェリルさんを剣の師匠と思って稽古を始めたようだった。
こうカイルを見つめていると⋯⋯強くなりたい頑張る男の子っていいよね!
⋯⋯てな気分になる私だった。
ボヨンボヨン⋯⋯。
「カイル! なかなか鋭い剣筋じゃないか」
「シェリルさんの教えのおかげですよ」
「そこだいけー! カイルやっちゃいなさい!」
私の応援にも熱が入る。
というのもこのシェリルさんが「弟子を取るのもわるくないな⋯⋯」とかなんか目覚めてしまったからだった!?
このシェリルさんもまたオネショターを狙っているのでは!?
だとするとライバル出現である!
「パパがんばれ!」
「おうルナ!」
ルナのカイルを見つめる目も思春期特有の色っぽさが垣間見える時がある。
うんそうだ、女の子はいつだって「私パパと結婚するの!」とか言い出す生物なのだ。
私もそうだった⋯⋯。
そう⋯⋯私の記憶なんだけど、女神と魔王が頭の中でごちゃごちゃしている間になんか蘇ってきた。
それによると⋯⋯。
『ねえパパ! 私パパと結婚するの!』
『だめなんだよセレーナちゃん。 パパとセレーナは親子だから結婚出来ないんだよ⋯⋯』
そう言われて失意だった私は⋯⋯。
『じゃあ私! パパが転生するまで待ってるから!』
そう言いだしてパパに内緒でクリスタル保存をやっちまったようだったのだ⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯思い出すんじゃなかった!
めっちゃ黒歴史である⋯⋯子供の頃の私はバカなのか? いやバカだな⋯⋯。
でもまあ⋯⋯そんな私は今やカイルの事が大好きである。
カイルがパパの転生体ではないと思うが⋯⋯まあそんな事はもはやどうでもいいか。
「あ! リゼおねえちゃん!」
「あはは⋯⋯ルナちゃんこんにちは」
「あらお久しぶりですリゼ様」
一度エルフの国に帰っていたリゼ様が来たようだった。
「みてみてリゼおねえちゃん! ムーンライト仮面参上!」
「⋯⋯⋯⋯」
私が教えたムーンライト仮面の変身ポーズが完璧にキマった!
ルナはすっかりムーンライト仮面が気に入ったようだった。
すっかりキメポーズが決まっている。
これも私が毎晩ムーンライト仮面のおとぎ話をテキトーに創作して聞かせていた成果である。
やっぱり子供の情操教育にはこういうヒーロー物は欠かせない。
今度暇なときに私の考えたムーンライト仮面のエピソードを出版してみようかな?
きっとそうなれば世界中の子供たちの間でもムーンライト仮面が大人気になるにちがいない!
「あらあらルナはムーンライト仮面大好きなのね」
「うん! ルナはリゼおねえちゃん大好き!」
「違うでしょルナちゃん。 ルナちゃんが大好きなのはムーンライト仮面であって私じゃないでしょ?」
なんだこのリゼ様の圧は?
「は⋯⋯ そうだった! ルナうっかり。 ルナはムーンライト仮面が好き! でもリゼお姉ちゃんも大好き!」
「あははは⋯⋯⋯⋯」
なんかやつれたリゼ様だった。
まあエルフの国は魔王復活で吹っ飛んで現在復興中だからしかたないが。
それにしてもルナはいつの間にこんなにリゼ様と仲良くなったんだろう?
まあいいや。
これが私の新しい日常だった。
⋯⋯つかの間の⋯⋯ね。
そして私はまたアグネス様に呼び出される。
「これはこれは皇帝息女様」
「それやめてよアグネス様⋯⋯」
私が初代皇帝の娘だと判明してからこのアグネス様の変わりようは⋯⋯。
「そろそろ皇帝になる決心はつきましたかセレーナ様」
「なるわけないでしょ⋯⋯」
そう次期皇帝に私がなれと、このアグネス様は言い出したのだった。
ハッキリ言ってゴメンである。
である⋯⋯のだが!
「正統たるセレーナ様が皇帝になり勇者カイルと結婚⋯⋯素晴らしいと思いませんかこの帝国の未来は?」
「⋯⋯⋯⋯ほう?」
⋯⋯この国を想う皇帝の娘として、そして聖女として私はなかなか運命から逃げ出せないようだった。
まったく卑怯だよなあ~アグネスさんってば~。
私ってばさ~皇帝なんかなりたくないんだよホントに!
でもさ~なんか仕方ないというか⋯⋯しかたないよねコレは!
『不純ね』
『欲望に忠実じゃな』
「やかましいわ! 幸せを追い求めて何が悪い!」
まあそんなわけで私は今は皇帝になるか保留中である。
「⋯⋯そのセレーナ様の中の女神と魔王は?」
「なんかこの時代を楽しんでますね」
「そうか⋯⋯危機は去ったという事か?」
「そうですね⋯⋯アグネス様のおかげで」
「私のおかげだと?」
私の中の女神と魔王は初めは険悪だった。
しかし何日か経ち、この現代の食生活を私を通して知ると態度が変わっていったのだった。
『なんじゃこの洗練された料理は!?』
『こんなのお供えになかったじゃない!』
まあその結果がちょっぴり増えた私の体重である。
うん大丈夫。
私のお肉は胸に行くから⋯⋯大丈夫に決まっているのだ!
プニ⋯⋯。
最近コルセットがきつくなってきた気がするが気のせいだろう⋯⋯絶対に!
まあそれはさておき。
「この帝国の今日の文化を作り上げてきたのは宰相であるアグネス様の手腕ではありませんか」
「私のおかげじゃと?」
「そうです! アグネス様の政治的手腕がこの魔王の悪しき野望を打ち砕いたのです!」
私はなんとかしてこのアグネス様に今後も宰相を続けてほしいと必死だった。
「ふふ⋯⋯そう言われると悪くない気分じゃな。 失敗ばかりではなかったのか私の人生は」
「そうですわアグネス様」
⋯⋯逃がさんよ、お・ま・え・も・な!
私はもしもホントに皇帝になった時の保険としてこのアグネス様とは仲良くしていかなくてはならん絶対に。
そんな時だった。
「母上!」
「あらアドミスどうしたの?」
「これ見てください母上!」
そうアドミス君が見せたのは100点満点のテストの答案用紙だった。
「がんばったわねアドミス!」
「うん! 母上に褒めて欲しくてがんばったよ僕!」
⋯⋯このアドミス君と以前のアドミス皇子とはもはや別人と言っていい。
元々のアドミス皇子の闇部分は魔王の体に使われてその後消滅したっぽいので、この残されたアドミス君はまさに光の結晶である。
「こんにちはセレーナお姉ちゃん!」
「こんにちはアドミス君!」
⋯⋯もしも元々のアドミス皇子がこんな素直な少年だったのなら普通に何事もなく私は結婚していたかもしれないなあ。
でもまあ⋯⋯私の本命はカイルだから!
私⋯⋯浮気しないので!
ちなみにアドミス君とロザンナちゃんの不死の加護は魔王が回収したようだ。
だからこの2人は普通に成長して老いて死ぬだろう。
いずれまた15歳になった時に新しい別の加護を授かる予定だ。
そんなロザンナもまた聖女としての修業の日々に戻ったようだ。
熱心で博愛に満ちた彼女ならばいずれ私を越える聖女になるに違いない。
まあ私⋯⋯聖女やめるんですけどねカイルと結婚するから!
⋯⋯まだ告白もしてないけど。
でもこれは私が決めた人生予定だ⋯⋯かならず実現させる!
でもそのためには私が皇帝にならないと駄目なんだよなあ⋯⋯。
⋯⋯はあ。
その時だった。
「アグネス大変じゃ!」
「あなたどうしたの!? そんなにあわてて⋯⋯」
血相を変えて走ってやって来たのはアグネス様の夫⋯⋯つまり現在の皇帝でアドミス君の父親である。
「たった今予言が来た! 海の底から悪魔がやってくる! この帝国の危機じゃあ!」
「なんですって!」
⋯⋯この皇帝の予知の力は本物の加護だからおそらく事実なのだろう。
でもまあ皇帝の予言は1年に1回くらいのポンコツなんだけど⋯⋯その1回がこんな予言だなんて!
「⋯⋯これは! アグネス様! 勇者の出番です!」
そう私は走り出す!
「あ! 待つなさいセレーナ!」
待たないよ私は。
そのまま中庭に居るカイルの所まで走ってきた私は──。
「カイル! また行くわよ冒険の旅へ!」
「え!? ちょっと待ってよセレーナ!」
そう私はカイルと走り出す。
「まってママ! パパ!」
「おい! あたいも行くよ!」
「ちょっと待ちなさいよね!」
ルナもシェリルさんもリゼ様も付いてきた。
「付いてこなくていいのに⋯⋯」
「おいセレーナ何がおこったんだ?」
そんなカイルに私は伝える。
「勇者の力が必要なの! 行きましょカイル!」
「わかったセレーナ!」
やっぱりお城に閉じこもる人生なんてまっぴらだ。
だから私は旅に出る、カイルと一緒に。
「私たちの冒険はこれからなんだから!」
私とこの世界を救う勇者たちの冒険はここから始まる!
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