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月光の聖女幻想記~追放聖女セレーナと未来の勇者たち~  作者: 鮎咲亜沙


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#028 セレーナとカイルの野望

 こうして私達は帝国のお城を後にした。


 ⋯⋯私は心に大ダメージを負って。


「私がまさか⋯⋯初代皇帝の娘だったなんて⋯⋯」


 そう、それがアグネス様の口から伝えられた私の秘密だったのだ。


 記録によるといつかこの帝国の血が薄くなり女神の祝福が途切れて、帝国が窮地に立たされる時がいずれ来る。

 そう憂いた私自身の意志によってその身をクリスタルの中に封印して保存していたらしい。


 ⋯⋯⋯⋯700年間も!?


 ようするに私はアドミス皇子と子孫を作るのが役目だったわけだ⋯⋯。

 そりゃアグネス様も必死で結婚させようとするわけだ。


「ぜんぜん覚えてない⋯⋯」

「まあ700年も経ってるし、しかたないよセレーナ」

「⋯⋯」


 そう慰めてくれるカイルだった。

 まあ記憶に関してはまだいい。

 問題なのは⋯⋯。


「ママはママじゃなくておばあちゃんだった?」

「ち、違いますよルナちゃん!? ママはルナちゃんのママですよ~!」


 そう必死に言い訳する私だった。


「700歳くらいなによ。 エルフならそのくらい普通よ?」

「私! 人間なんですけど!?」


 くそ⋯⋯エルフみたいなご長寿生命体とは違うんだ人間は⋯⋯。


 それに⋯⋯。

 私はカイルをそっと見つめる。


「どうしたんだセレーナ?」

「⋯⋯なんでもない」


 何でもないわけじゃない。

 そうだ⋯⋯今はすごく自覚していた。

 私はこのカイルが好きなんだって⋯⋯。

 それなのに私⋯⋯おばあちゃんで⋯⋯⋯⋯。


「ねえセレーナ⋯⋯ちょっと?」

「なんですかリゼ様⋯⋯」


 なんかリゼ様がコソコソと話しかけてくるのでナイショ話をする。


「セレーナはカイルが好きなのよね?」


「ええ⋯⋯まあ」


「そりゃショックだよなあ⋯⋯自分の方が圧倒的年上とかさ⋯⋯」


 そう話に加わるシェリルさんも年上の女性だから他人事ではないのかもしれない。


「私だってふと好きになる人が出来てもみんな若い女のところに行っちまって、気づけばこの歳さ⋯⋯ははは」


 そう自虐的に笑うシェリルさんだった。


「まあノインの姉御に比べたらマシだけどな⋯⋯」

「ノインさんって何歳なんですか?」


「さあ知らん。 少なくともあたいがまだ子供だった頃からあの姿だったし⋯⋯」


 そうか⋯⋯ノインさんのあの『自立したかっこいい女の姿』は結婚を諦めた女の潔さだったのか⋯⋯。

 でも私にはまだ未練が⋯⋯ううっ。


「⋯⋯セレーナにはこういうものがあると教えましょう」

「なんですかリゼ様?」


「私たちエルフの⋯⋯エルフの女性には『オネ・ショター』という文化があるのです」


「オネ・ショター? なんですかそれ?」


「私たちエルフの寿命は長い⋯⋯それこそ1000歳くらい余裕で生きてます」

「すごいなあ⋯⋯エルフって」


「それでですね、エルフの女性の中には自立した人生を歩んでいてもふと⋯⋯子育てしたいという願望が芽生える時期が来るのです」


「はあ⋯⋯」

「生物としての本能なのかなそれって?」


「そうですね。 で⋯⋯それでたまに1000歳くらいになってから婚活し始めるエルフ女性はまあ苦戦するわけですよ⋯⋯⋯⋯男は若い女を選ぶから⋯⋯」


「そういうとこは人間もエルフも変わらないんだな⋯⋯」

「ううっ嫌な現実だ⋯⋯」


「そこでです! エルフ女性の編み出した婚活方法、それが『オネ・ショター』なのです」

「それは何なのですか?」


「まあようするに、まだ恋も知らないような若い男の子のエルフ少年のうちから⋯⋯「ほら、お姉さんって素敵でしょ♡」⋯⋯と洗脳⋯⋯いえ教育しておくというものなんです」


「⋯⋯!? そんなことが許されるんですか!」

「マジかよ⋯⋯エルフやべえな!」


「彼女たちも必死ですから⋯⋯」


 なんという千歳(せんさい)な乙女心なのでしょう⋯⋯。

 しかし私はまだ疑問があった。


「でもそれってせっかく育てた男が他の女に目移りしたら⋯⋯?」

「そうなる前にキメてしまう! それが『オネ・ショター』の極意なのです!」


 なんという過酷なエルフ文化なのでしょう⋯⋯。


「⋯⋯おいセレーナ?」

「なんですシェリルさんや?」


「あたいの見たところ⋯⋯カイルはまだ他の女の免疫は皆無だぜ」

「つまりカイル君はまだ⋯⋯セレーナさんしか女を知らない初心なお子ちゃまなんですよ」


 ⋯⋯!?


「つまりカイルとならまだ⋯⋯オネ・ショターが可能!?」


 なんか希望が見えてきた!

 これが私の最後の希望にちがいない!


「がんばってセレーナ」

「はい、リゼ様!」


 リゼ様⋯⋯なんて優しいエルフなんでしょう。

 ⋯⋯でも?


「あのリゼ様ってオネショターするくらいの年齢なのですか?」


「私? 私はまだピチピチの夢見る若さの140くらいよ! オネ・ショターなんてまだまだしなくて大丈夫!」


「油断してるとあっという間だぜ⋯⋯リーゼロッテ様よう⋯⋯」


「それは人間の時間感覚よ。 エルフの私はまあ⋯⋯300歳くらいで結婚すればいいだけだから。 余裕余裕~」


 そうやってズルズルとオネ・ショターになっていくんですねエルフ女性って。


 まあそれはいいとして⋯⋯。

 今後の方針が決まりました。


 まず魔王を倒す事。

 でもその過程で⋯⋯カイルに私を惚れさせないといけない!


 そう⋯⋯初代皇帝とその聖女のようなラブラブゴールインを!


「あたいもこの戦いが終わったら真剣に結婚相手を探すかな⋯⋯」

「シェリルさん、それって死亡フラグですよ? やめてくださいね?」


「なんだよ! あたいに結婚するなと言いたいのか? あたいだって幸せになりたいんだ⋯⋯1人は寂しいんだよ」


「大変ですね人間は、若い時間が短くて」


 そんなリゼ様を私とシェリルさんが見つける⋯⋯。


「リゼ様もいずれこうなる⋯⋯」

「そうだな⋯⋯結婚とか無理そうだぜ」


「そ⋯⋯! そんなこと絶対にありえませんわ!? この私に限って!」


 こうして私達は魔王を倒しに行く途中とは思えない秘密の乙女トークに花を咲かせていたのだった。






「なに話してるんだろセレーナ達は?」

「幸せ家族計画?」

「ルナは難しい言葉を使うなあ⋯⋯」


 やっぱりルナは子供だと思っていてもすぐに大人になるんだろうなあ獣人族だし。

 俺の知ってる獣人族の生態だとルナの場合はあと数年ですっかり大人の女性になるという事だ。

 つまり俺のパパ役なんてそれまでという事だ。


「ねえパパ」

「なんだルナ?」

「あたし⋯⋯弟が欲しい!」


 とんでもないおねだりだな⋯⋯。


「そ⋯⋯それはパパだけで出来る事じゃないし⋯⋯」


「ママと協力!」

「そ⋯⋯それはっ!?」


 そりゃたしかにセレーナは魅力的で!

 いつかは結婚とかしたい⋯⋯そう思うけどさ!


 でも無理なんだよ⋯⋯俺とセレーナじゃ⋯⋯。


「俺とセレーナとじゃ身分が違いすぎる⋯⋯」


 そう、セレーナは皇帝の娘という高貴な血を継ぐ者だった。

 俺みたいな庶民と結婚なんてできるわけが⋯⋯。


「身分⋯⋯よくわからない。 でも雌は強い雄を選ぶのは当然」


 うんそれは獣人の考え方だな。

 でも⋯⋯。


「もしも俺が真の勇者に成れれば⋯⋯」


 この帝国の初代皇帝となった男もかつてはただの男だったのだ。

 そうだ⋯⋯俺も魔王さえ倒せればセレーナとの結婚も夢じゃないかも!


「ルナ⋯⋯がんばるよ俺。 セレーナに選んでもらえるように、誰からも認めてもらえるように」


「がんばれパパ!」

「⋯⋯うん!」


 そう、俺は決意した。


 思えば俺はいつの間にか欲張りになっていたのかもしれない。

 最初はセレーナの騎士でいいとか言っておきながら今じゃ結婚したいだなんて⋯⋯。


 身勝手な⋯⋯でもそれが俺の本心だ。


「俺は⋯⋯魔王を倒す」


 そう決意する俺をルナが見つめていた。


「ねえパパ」

「なんだルナ?」

「やっぱり妹も欲しい」


「⋯⋯がんばるよ」


 うん頑張らないと⋯⋯俺。

 こうして俺たちの魔王討伐への旅は続くのだった。




「ねえカイル⋯⋯力を合わせて魔王を倒しましょうね」

「ああセレーナ⋯⋯」


 俺とセレーナの手が重なる。

 その手には俺とセレーナを繋ぐ絆の刻印が輝いていた⋯⋯。

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