#025 セレーナの勇者たち
「セレマーサ様の巫女ってセレーナが?」
そう聞いてきたのはカイルだった。
「そう⋯⋯有事の際は私がセレマーサ様の声を聞く役目を担うはずだったんだけど」
まあそういう役目で私は大聖堂で育てられていたわけだ。
「貴様は部外者であろう? 黙っておれ」
そうアグネス様がカイルを叱る⋯⋯かちん。
「ちょっとアグネス様! このカイルは⋯⋯」
そう言いかけてやめる私だった。
「なんだセレーナ? この男がなんだというのだ? 今のお前の仲間らしいが⋯⋯状況がこうなった以上もはや生きる世界が違う」
まあアグネス様の言うことも正論ではある。
それにこの魔王の問題に無関係なカイルを巻き込みたくないという配慮なのだろうし。
アグネス様はそういう筋は通すお方だ。
⋯⋯それにカイルは勇者と言ってもまだ弱い。
今はじっくりと力をつける時期なんだから。
そう思って私もカイルを遠ざけるべきか考えたその時だった。
「俺は部外者じゃない! この聖女セレーナに見いだされた勇者なんだ!」
「カ、カイル!?」
まさか自分から告白するとは思ってなかった!
「勇者じゃと!」
そうアグネス様はいまさら真面目にカイルを見つめる。
「ええそうです! これが証拠です!」
そう言ってカイルは手の中に小さな光りの剣を生み出した。
「カイルそれは!?」
私が知ってるカイルの光の剣はあくまで実際の剣に付与する光属性のオーラだったはずだ。
それなのに剣を媒介せずに無から光る剣を生み出した!
「練習したんだ。 それで剣が無くても作れるようになった」
「⋯⋯カイル」
そっか⋯⋯カイルは頑張っていたんだ。
私の知らないところで⋯⋯。
「ひ⋯⋯光の剣? という事はお前は光属性の! じゃあ本当に勇者なのかお前が!」
そう驚くアグネス様だった。
「それが光属性の魔力か⋯⋯ちょっと見てもいい?」
そう好奇心たっぷりに見つめるリゼ様だった。
⋯⋯この人、魔法マニアだからなあ。
「ええいいですよ」
「ほんと!」
そう言ってリゼ様はカイルに近づいて⋯⋯。
「あら? 意外と固くて熱いのね」
そう熱いまなざしでカイルの剣を撫でまわしている。
「あんまり乱暴にさわるとあぶないですよ!?」
そうリゼ様に突っつかれてドギマギしているカイルだった。
⋯⋯⋯⋯イラッ!
「そのへんでいいでしょリゼ様!」
「ええ~もうちょっとだけ! 先っちょだけでもいいからちょうだい!」
「いやこの剣は俺の手を離れるとすぐ消えちゃうから!」
私は思いっきり力強くリゼ様をカイルから引き離す!
「その話はあとで!」
「は~い」
残念そうなリゼ様だった。
「⋯⋯いいかげんやめんか!」
そうキレた声で叫ぶアグネス様だった。
「「は~い」」
「なんで俺まで⋯⋯」
一緒に反省する私とリゼ様。
そして納得いかないカイルだった。
「パパ? 浮気したらママがかわいそう」
「う、浮気じゃないよルナちゃん!?」
「ルナ!? そんな言葉どこで覚えたの!」
突然爆弾を投げ込むルナだった。
「シェリルおねーちゃんに教えてもらった!」
「お前か! お前がルナにイケナイ事教えたバカか!」
私は近くに居たシェリルさんの胸ぐらをつかんで前後に揺さぶった。
「ちょ!? やめ!? 頭がぐわんぐわんする!?」
「可愛いルナちゃんの教育に悪いでしょ! なんてことを教えるのよ!」
「いや⋯⋯過保護が必ずしもいい教育だとは限らな⋯⋯」
そう大騒ぎしてたら⋯⋯。
「いいかげんにせんか! お前ら!」
「「「⋯⋯はい」」」
「なんで俺まで⋯⋯」
「パパたち反省できて偉い!」
そうシュンとなる私達だった。
⋯⋯それはさておき。
「少年⋯⋯そなたの名は?」
「カイルです」
「そうか⋯⋯良い名だな」
この時初めてアグネス様はカイルを真っすぐに見つめていた。
私のカイルを!
「これも運命なのかもしれんな⋯⋯」
「運命ですか?」
「そうだ。 セレーナお前が城を国を出て行ってこうして希望の勇者を見つけるのも⋯⋯な」
「⋯⋯」
カイルが帝国人だという事は黙っとこう⋯⋯めんどくさくなりそうだし。
「改めて頼む。 セレーナにカイルよ⋯⋯魔王を倒してくれ」
ついに来た⋯⋯この時が。
私の勇者カイルが魔王に立ち向かう時が!
でもしかし。
「あのところで、魔王って復活してから何か悪い事しましたか?」
私は気になっていたことを聞いてみる。
かつて私が大聖堂に居た頃に聞いた女神セレマーサの話だと⋯⋯。
「そうね、特になにも悪さはしていないわね。 まあ皇子と聖女はぶっ殺したけど⋯⋯」
「まあロザンナの不死の加護のおかげで2人とも無事じゃがのう」
「⋯⋯やっぱりか」
私の予想は的中のようだった。
「なにか知っておるのかセレーナよ?」
「⋯⋯あくまで断片的に私が女神セレマーサ様に聞いたことからの私なりの推測でよければ」
そう前置きをしてから私は説明する。
「そもそも女神と魔王ってなんだと思いますか?」
「なんじゃと言われても⋯⋯女神と魔王だとしか?」
「ええまあその通りで、一般的にはその程度の認識だと思います。 ⋯⋯でもですねえ」
私は言いにくそうに続ける。
「私⋯⋯1回だけ女神様が魔王の事を「姉さん」と言ったのを聞いたんですよね⋯⋯」
「はあ!? なんじゃそれは!」
「待ってよセレーナ! それじゃ女神と魔王は姉妹神なの!?」
「たぶんそうなんじゃないかと⋯⋯まあ神とか魔王なんて私たち人間の尺度ではどっちがご利益があってどっちが害悪かくらいの差ですからねえ⋯⋯」
おそらく古の女神と魔王の戦いとは天界の姉妹喧嘩で地上が大迷惑だったんだろう⋯⋯たぶん。
「じゃあセレーナ、その神様が仲悪いから今こうなってるってこと?」
「まあ人間の兄弟でも仲が悪くてやらかして国を亡ぼす⋯⋯なんてことも歴史ではありますからねえ」
あの帝国の約100年前がそうである。
おかげで現在の帝国はかなりの国土と支配力を減らしたのだった。
それを取り戻そうと一番頑張ってきたのがこのアグネス様なんだよなあ⋯⋯。
「ではどうすれば?」
どうするんだろうねえ⋯⋯。
私としてはお2人の神同士で殴り合って決着をつけてほしいのだが⋯⋯神話によるとそれやったら大地が割れる⋯⋯らしい。
「じゃあ俺の勇者としての使命は魔王を倒す事じゃなくて女神と仲直りさせることなんだな!」
「カイル⋯⋯」
それができたら苦労はない。
でもそれが私が望む決着だ。
それをカイルは選んでくれた⋯⋯。
「アグネス様。 私たち冒険者パーティー『アルテミス』は⋯⋯魔王と対話するために天空山へと向かいます!」
そう私は決心したのだった。
おそらく今バチクソにケンカの真っ最中なセレマーサと魔王ソルゾーラを止めるために。
「ああ行こうセレーナ! 俺たちで世界を救おう!」
「ルナも行く!」
「⋯⋯はい!」
そして。
「あんた達だけだと不安だから私もついていってやるよ」
「シェリルさんも?」
「いっしょに来てくれるのシェリルおねーちゃん!」
「うん行くよ! ルナちゃんをおねえちゃんが守ってあげるから!」
正直カイルだけだと前衛が薄いからなあこのパーティーは。
だからシェリルさんが一緒は心強い。
「お願いしますシェリルさん」
「まかせな」
そしてもう1人⋯⋯。
「最強のパーティーには最強の魔道士も必要ないかしら?」
「来てくれるんですかリゼ様!」
「もちろんよ。 これはエルフにとっても死活問題なんだから他人事じゃないわ」
こうして私とカイルとルナだけだったパーティーに、シェリルさんとリゼ様が加わった!
後に伝説となる勇者パーティー『アルテミス』が生まれた瞬間だった。
⋯⋯そうなるといいなあ!
そう盛り上がっていたら⋯⋯。
「その言いにくいのだが⋯⋯いったん帝都に来てもらえんか?」
「帝都に? なんでですかアグネス様?」
まあそう寄り道ではない場所ではあるが⋯⋯。
「セレーナよ⋯⋯我が子アドミスを救ってほしい」
「アドミス皇子を?」
あれ? 皇子って死んだんじゃ?
あっそうか、不死の加護で死なないんだった。
じゃあ何を私に救えと?
この時の私はアドミス皇子の身に何が起こっているのか知るよしも無かった。
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