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月光の聖女幻想記~追放聖女セレーナと未来の勇者たち~  作者: 鮎咲亜沙


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#022アドミス、勇者の旅立ち!

 僕とロザンナは優雅に紅茶を飲みながら語り合う。


「ねえロザンナ、この虹色海岸なんか素敵じゃないか?」

「ステキね! 私達の新婚旅行に♡」


 そういろいろパンフレットを見ながら話し合っていた。

 ⋯⋯のだが!


「お前ら! いつまで城に居るつもりだ! さっさと旅だてよ!」

「は、母上!?」


 そう母が怒鳴り込んできた。


「いやその⋯⋯せっかく勇者として旅に行くんだからロザンナとの新婚旅行にどうかなーと?」

「そうですわ、お義母さま」


「⋯⋯あんた達、結婚式は中止になってまだ結婚してないでしょうが! それなのに新婚旅行ってどうなのよ!?」


 そうわめきたてる母だった。


「いや、そうかもしれないけど⋯⋯でもさ。 新婚旅行は何度行ってもいいものでしょう?」


 そもそも1回の旅行ではいろんな所には行けないからな。


「そう⋯⋯じゃあセレーナとも新婚旅行にいくのね」


「行くわけないだろ! 結婚なんて人生で1回で十分さ!」

「そうですわお義母さま!」


 まだその話をする気か母め⋯⋯はっ!?


「ちょっとまて! 母上! まさかセレーナが生きているのか?」

「ええそうよ。 共和国に送ったスパイからの連絡でセレーナらしき人物が確認できたわ」


「な・ん・だ・と⋯⋯。 しぶとい」

「そこまでして私とアドミス様の幸せを妬むなんて酷いわセレーナ!」


 やばい⋯⋯このままここに居たら。

 母上が連れ戻したセレーナと結婚させられる!?


「⋯⋯ロザンナ! 旅に行く時が来たようだな!」

「アドミス様!? ⋯⋯! そうね! 私とアドミス様が真の勇者と聖女として世界を救うこの時が!」


 そんな僕たちを母は冷ややかに見つめていた。


「はあ⋯⋯わかったわ。 そこまであなたがセレーナと結婚したくないというのなら条件がある」

「べつに母上に許可をもらわなくてもいいんだけど⋯⋯どんな条件を?」


「さっきあんた達が言った通りよ。 この帝国の未来のために次の勇者と聖女が必要なの。 セレーナが使えないのならあんた達でやるしかない」


「ふはははっ! ならおまかせあれ! この僕アドミスとロザンナが世界を救ってみせましょう!」

「ご安心くださいませお義母さま」


「⋯⋯出来なかったらセレーナと結婚だからね」

「うぐ⋯⋯わかったよ」


 だれがあんなのと結婚などするものか!


 こうして大いなる使命を背負った僕とロザンナは、この快適な城から旅立つことになったのだった。

 ⋯⋯とほほ。




「しかし、どうしてこの未来の皇帝である僕の旅に騎士でなく⋯⋯こんな平民の兵士を同行させなきゃいけないんだ?」


 僕とロザンナが乗る馬車を護衛するのは騎士団ではなくただの兵隊だった。


「しかたなかろう。 お前が行く外の世界では魔物がはびこっておる。 その魔物との戦闘経験は騎士よりも雑兵である兵士が向いておるのだ」


「父上⋯⋯」


 そう、僕を見送りに来た父が言った。


「⋯⋯父上も一緒に行きませんか? ほら父上も皇帝として帝国を背負う立場なんだし」

「ごほっごほっ! ⋯⋯ワシももう歳じゃ、未来は若者であるお前に託したぞ息子よ!」


 そう言い終わって後宮へと逃げ出す父上だった⋯⋯。


「はあ⋯⋯情けない。 あれが世界をすべる我が帝国の皇帝ともあろう男の姿とは⋯⋯」


 たしかに父上がこの体たらくでは、僕が次の皇帝として名を馳せるには雄々しく旅だつところを民に見せなければ示しがつかないのかもしれん。


「いいですかロザンナ。 この帝国には皇帝が必要なのです。 たとえあなたの身を犠牲にしてでもアドミスを守りなさい。 それが妃となる者の覚悟です。 私もそうして皇帝に嫁ぎました」


「政略結婚なのに?」

「⋯⋯政略結婚だからこそです。 ですが⋯⋯あなた達はたとえ愚かでも愛し合う心は本物なのでしょう?」


「あたりまえじゃない!」

「そうだぞ母上!」


「なら力と心を合わせて困難に立ち向かいなさい」


 まったく説教くさいなあ母上は⋯⋯。


「アドミス皇子! 出発の準備が出来ました!」

「おおそうか! それでは母上! 行ってきます!」


 ちょうどいいタイミングだった、母上の小言を終わらせる。

 そして僕とロザンナはさっさと馬車へと乗り込んだ。


「アドミス!」


 やば! まだ母上は何か言う気か!


「出発だ! 行け!」


 僕の号令で馬車は発進した!


「アドミス! ────! ⋯⋯⋯⋯」


 母上が何か言ってるがもう聞こえん。

 まあいいさ、この僕の旅立ちには必要ない。


 こうして僕とロザンナの⋯⋯いや勇者と聖女の旅が始まったのだった。




「──体には気を付けなさい⋯⋯」


 そのアグネスの言葉はアドミスには届かなかった。

 そしてアグネスはアドミスの乗った馬車を見送った。


「⋯⋯アドミス、私のかわいい息子。 たとえ馬鹿でも貴方に皇帝になってもらいたい⋯⋯そう思う母としての気持ちは愚かなのかしら」


 そうアグネスは自問する。


 このゼルベルク帝国を存続させるために当時侯爵令嬢であったアグネスは皇帝に嫁いだ。

 政略結婚⋯⋯しかしアグネスはそれでも皇帝を愛そうとはした。

 しかしその想いは伝わることは無く⋯⋯諦めた。


 そして彼女の愛はただひとりの息子のアドミスへと注がれたのだった。


「いつかこの子が皇帝となるのを見たい」


 その想いだけで彼女はこの傾きかけたゼルベルク帝国を立て直そうと頑張った。

 そのために、ただ一度だけ使えるセレーナの復活というカードも使った。


 しかし⋯⋯何もかもが上手くいかなかった。

 そして恐れていた魔王の復活という吉凶の兆しすら訪れたのだ。


「⋯⋯本当ならアドミスを旅だたせるなんてしたくない。 でもロザンナが持つ不死の加護さえあればアドミスの無事は保証できる」


 刻印によって繋がったアドミスとロザンナ。

 その2人には加護の力も共有されるとアグネスは知っていた。


 それはある意味、セレーナと旅立つよりアドミスは安全だという事だった。


「皮肉ね⋯⋯私のしたことは全部裏目ばっかり。 でも運命は英雄の誕生を望んでいるのかしら?」


 アグネスは考えるが⋯⋯答えなど無かった。


「アドミス⋯⋯無事に戻ってきて。 私のかわいいアドミス⋯⋯」


 母のその想いはアドミスには届かない。




 そして僕の乗った馬車が出発してしばらくたった頃。


「ねえアドミス様? どこへ向かうの?」

「ああロザンナ。 ⋯⋯エルリーフ王国さ」


 そう僕は答える。


「ええ!? あのド田舎のエルフの国に?」

「ああそうだ⋯⋯あのクソ田舎にな⋯⋯」


 そう僕もうんざりしながら言うのだった。


「なんでそんな所に?」


「仕方ないだろ? その国に勇者の聖剣が置いてあるんだから取りに行かないと」

「聖剣ですって!」


「そうだ! この勇者アドミス様の聖剣がそこにあるんだ!」


 なら取りにいかないとね。

 この僕とロザンナの力なら魔王くらいちょー楽勝に決まっているが、やっぱ聖剣が無いとカッコがつかないからな。


「でもどうしてアドミス様の聖剣がエルリーフなんかにあるの?」


「文献によると、かつての聖剣は魔王討伐⋯⋯といっても封印止まりだけど、その時に力を使い果たしたらしい。 それでマナの濃い田舎のエルフの国でチャージ中という事だそうだ」


「そうだったのね! つまりもう聖剣は復活していてアドミス様を待っていると!」

「そのとおりさロザンナ」


 すべてが筋書き通り⋯⋯この僕が勇者となるための!


「ふふふ! 待っていろ魔王! この勇者アドミスが貴様を叩き殺す!」

「きゃ~! 素敵アドミスさま!」


 こうして僕たちの旅が始まったのだった。


 ⋯⋯のだが!


「皇子様! 今日はここで夜を越します!」


「はあここで!? こんな森の中で!?」

「そうよ! 豪華なホテルはどこよ!」


「その⋯⋯これが旅なので⋯⋯」


 ⋯⋯まったくふざけるな!

 この僕がこんなところで野宿だと!?


「きゃあアドミス様!? 蚊が! 蚊に噛まれましたわ! 痒い!?」

「くそ! 僕も蚊に噛まれた!? なんで僕らがこんな目に!」


 どうして未来の皇帝である僕がこんなところで!

 ああ! 昨日までお城のスイートルームで贅沢三昧だったのに、どうしてこうなった!


 こうして僕とロザンナの勇者への試練が始まったのだった⋯⋯。


「痒い! また噛まれた!」

「ひい! 私の肌がシミになるわ!」


 何てつらい試練なんだ⋯⋯。

 でも僕は負けない!

 偉大なる皇帝になるんだからな!


 こうして僕の過酷な勇者への旅が始まったのだった!

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