#002 セレーナの旅立ち
「とりあえず、お隣のセグレイト共和国へ行きましょうか?」
そうかなり行き当たりばったりに目的地を決めた私でした。
そんな私が舞踏会場を出てしばらく歩いた時です。
「あら? セレーナじゃない!」
「おや? リゼ様じゃないですか?」
私とすれ違った馬車から顔をのぞかせてこちらを見つけたのは遠くエルフの国のお姫様、リーゼロッテ様でした。
私の未来の皇后教育のための他国との親善で出会った数少ない友人です。
「あれ? どうしたのセレーナ? 舞踏会は?」
「私、婚約破棄されたので今から出ていくところなんです」
そう素直に答える私です。
「はあ!? 婚約破棄!? あのクソ皇子と!」
クソ皇子って⋯⋯まあそうなんだけど。
「そうなんです。 なのでこれで自由の身です、私」
「なに考えてるのよ、アドミスくそバカ皇子は⋯⋯」
「なんにも考えてないんでしょうね」
私は思った通りの事を答えます。
「そうよね⋯⋯まあおめでとうセレーナ。 おめでとうでいいのかしら婚約破棄で?」
「私にとっては万々歳なのでおめでとうです。 ありがとうリゼ様」
「ふーん、まあいっか。 それでこれからどうするのよセレーナは?」
「とりあえずどこかの国で冒険者にでもなろうかと?」
「へー冒険か⋯⋯いいわね。 私もそんな風に生きたいわね」
「では行きますか、リゼ様も?」
「うーん、今は止めとくわ残念だけど。 やらなきゃいけない事が出来たみたいだし」
そうニヤリと笑うリゼ様だった。
「ほどほどに頑張ってくださいねリゼ様。 ⋯⋯この国の人には無関係なんですから」
「ええ⋯⋯ほどほどにね」
そう美しい金髪をなびかせてリゼ様はまた馬車に乗りました。
「進路反転! エルリーフ王国へ戻るわよ!」
「御意!」
そう今まで向かおうとしていた舞踏会場から反転して元来た道を戻るリゼ様だった。
でも馬車の窓から身を乗り出して⋯⋯。
「じゃあねセレーナ! 落ち着いたら私の国へも遊びに来なさいね!」
「はいリゼ様! いつか必ず!」
そう颯爽と帰っていくリゼ様でした。
⋯⋯この帝国は今までエルフの国を虐げてきたからなあ。
私と皇子が結婚しないと思ってこの先の帝国の国力の低下を見切ったのでしょうねリゼ様は。
この先の帝国というかお世継ぎのアドミス皇子様には精霊の寵愛は無いからなあ⋯⋯。
その補佐役としての私との婚約だったんだけど⋯⋯まあもうどうでもいいや。
私自身この帝国になんの未練もないし。
というのも私は身寄りの居ない孤児だったし、ずっと聖女の修業の日々でこの国を見て回ることも無かったからです。
まあこんなにも愛国心のない私が未来の皇帝であるアドミス皇子と結婚などしなくてあんがい良かったのかもしれませんね。
「さて⋯⋯行きますか」
私はちょっとだけさっきリゼ様に馬車に相乗りさせてもらえばよかったと後悔するのでした。
私は城門を出てからずっとハイペースで歩き続けました。
もしも追手が来たら面倒なので⋯⋯。
「もしも追手が来るのなら夜明けから⋯⋯でしょうかね?」
つまりこの夜が明けるまでが逃亡の成功を決めるのです!。
しかし歩き続けるのはなかなか骨が折れますね⋯⋯。
「川か⋯⋯そうだ」
私は魔法で水を凍らせて即席の小舟を作った。
これに乗って流されていけば歩くよりハイペースで川下へと行けるはずです。
⋯⋯ただ問題は。
「さ⋯⋯寒い、冷たい」
座るとお尻が冷たいのでずっと立ちっぱなしの私でした。
でも歩くよりは早いのでこれで追手を振り切れるかもしれませんね。
「⋯⋯追って来るかな?」
少なくともアドミス皇子とその取り巻きのあの場に居た貴族たちは私の事など眼中になかったです。
しかし国王である皇帝陛下⋯⋯いやその奥方で帝国の宰相でもあるアグネス様が知れば絶対に私は連れ戻されるでしょうね。
あの人は苦手なんだよなあ⋯⋯いろいろマナーとかうるさいし。
できればもう会いたくない。
「この服もあとで処分しないと⋯⋯」
この聖女服はこの国の聖女の礼服だからなあ⋯⋯目立つ。
どこかで着替えないといけませんね。
そんな風に私は今後の計画を立てながら流されていくのでした。
そして夜が明けた⋯⋯。
「ふわぁ⋯⋯ちょっと寝てた⋯⋯」
私⋯⋯立ったまま寝るのは特技なので。
大聖堂でのキビシイ訓練の成果がこんなところで役立つとは⋯⋯。
だいぶ流されてきましたね、ここはどこら辺なのでしょうか?
私には土地勘が無いのでよくわからなかった。
「川の近くには街がある⋯⋯これは常識のはず」
しかし見渡す感じ街は無かった。
大丈夫かな? そう心配していたら⋯⋯。
「なんだ!? 女の子が流されてるぞ!」
そう私を見つけた旅人が居ました。
「どうもです」
そう私は手を振って別れようと思ったのですが⋯⋯?
⋯⋯その時に気づきました。
その旅人の連れている馬が倒れているのを!
「どうかされたんですか?」
「いや⋯⋯さっき魔物に襲われてな。 馬が怪我して動けないんだ」
そう困った様子でした。
ふむ⋯⋯助けるか。
けして善意ではありません打算です。
あの旅人から情報を貰うのが目的です。
私は氷の船をあっさりと乗り捨てました。
まあほっとくと溶けて消えるでしょう。
「よっと⋯⋯私は見ての通り聖女です。 その馬の怪我を治してあげましょうか?」
「本当か! そりゃ助かる! しかし持ち合わせが⋯⋯」
この国の聖女は無償で施しなどしませんからね、ボッタくりの現金主義です。
「このあと私を街まで案内してくれるのなら無料でいいですよ」
「それでいいのか!? なら頼むよ!」
こうして私はこの傷ついた馬を癒すことにしました。
「⋯⋯骨折している。 すぐに治してあげるからねエクス・ヒール」
そう私は上位治癒魔法をかけました。
するとみるみる馬の怪我が治ります。
立ち上がるお馬さん。
私の事をペロペロとなめてくるのでした。
「くすぐったい。 よかったね治って」
馬の骨折は死と同じです。
⋯⋯よかった、偶然ここに通りかかって。
「おお! よかった! あんた小さい見かけによらずすごい聖女様なんだな!」
小さい? 見かけによらす? うるさいですね!
大聖堂での食事は肉が足りないのです肉が!
でもまあ誉められるのは悪い気はしませんが。
これでも大聖堂の聖女時代にはいろいろ治してきた私ですが⋯⋯こうして純粋な感謝をされたことは無かったですね。
やれ上から目線のお貴族様だとか。
やれ銭ゲバ呼ばわりする平民の方だとか。
私⋯⋯1ゴルも受けっとってないのですが、全部大聖堂に巻き上げられていたので⋯⋯。
「それでは私を街まで連れてってくれませんか?」
「おう、そうだったな!」
こうして元気になった馬が引く小さな馬車に乗せてもらう私でした。
「あの私⋯⋯服が欲しいんですけど? 街に服屋がありますか?」
「服だって? 聖女様が?」
「実は私⋯⋯破門になったんで着替えたいんですよ」
そう聞いて目を丸くして驚くおじさんでしたが⋯⋯。
「はははっ! あんたお人好しそうだもんな! さぞや教会の機嫌にさわったんだろうな!」
どうやら私はお人好しでどこでも無償奉仕の聖女様だから教会から破門になったと思われているようですね。
⋯⋯まあいいやそれで。
「まあそんなとこです。 なのでここからは普通の旅人になりますから」
「服屋ならあるから連れてってやるよ聖女⋯⋯じゃなくて優しい嬢ちゃん」
意外と話のわかる村人でしたね。
こうして私はようやく街に辿り着いたのでした。
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