#019 アドミス皇子の結婚式の異変
ついに今日は僕と愛するロザンナとの結婚式だ!
⋯⋯長かったなこの日が!
僕とロザンナは同じ日に産まれた従妹である。
そう! 今日この日に結婚するという運命で結ばれた2人だった。
「ロザンナ⋯⋯綺麗だよ」
「アドミス様♡」
純白の花嫁衣裳のロザンナはそれはもう美しくエロティックで⋯⋯♡
これが僕のお嫁さんとか、僕はもうこの帝国⋯⋯いや世界一の幸せ者に違いない。
「⋯⋯まったくセレーナと結婚させるはずだったのに」
そう苦々しい目で僕たちを見つめるのは母のアグネスだった。
往生際の悪い母はまだセレーナの捜索を続けているらしい⋯⋯無駄なことを。
仮に見つかったとしても僕がいまさらあんなペチャパイ白髪女と結婚するとでも?
⋯⋯ありえないな!
「おおアドミスよ⋯⋯今日はいつにもまして凛々しいな」
「父上!」
ずいぶん久しぶりに父の姿を見た。
父はこの帝国の偉大な皇帝だが国の運営はすべて母に任せるという器の大きい男だ。
そうだよ、皇帝たるものが朝から晩までずっと仕事するとかおかしい!
信用できる部下に任せるのがいいに決まっているのだ。
皇帝には皇帝の。
貴族には貴族の。
そして平民には平民の生き方がある!
それが僕が父から学んだ帝王学というやつだった。
「⋯⋯あなたの悪いとこばっかり似てしまって」
「アドミスの教育はお前に任せていただろ」
⋯⋯喧嘩しないでほしい、せめて僕の結婚式くらいは。
父と母はこの帝国の為の政略結婚だったらしい。
僕という優秀な子供は作ったが⋯⋯愛は育めなかったようだ。
父はいつも愛人のところで人生を謳歌し。
母はいつも仕事に追われて小じわが増える人生だった。
僕は子供の頃からこんな両親を見て思った。
⋯⋯やはり結婚は真に愛する者としなければならないと!
そんな僕と同じ日に産まれたロザンナとは会う機会も多く⋯⋯やがて恋に落ちた。
ところが母がいきなり大聖堂で育てられたというどこの誰ともわからんセレーナを僕の婚約者にしたから大変だった。
でもまあ今となってはそれも思い出さ。
こうして本当に愛するロザンナと結婚できるのなら⋯⋯。
「⋯⋯いずれセレーナを見つけて妾にしてでも世継ぎを産ませれば」
⋯⋯母のこの執念はなんなんだろう? 恐ろしくなる。
僕はヤダよ!
セレーナが嫌なのは当然なんだけど⋯⋯それよりも父を見て思った。
浮気は良くないと!
当然この偉大なる僕がやがては皇帝になりその次には僕とロザンナの子が未来の皇帝になる!
それが当然だろ?
それなのに僕とセレーナとの子を未来の皇帝にしようとする母は狂っているのだろうか?
⋯⋯まあ母ももう歳だからな。
この結婚式が終われば宰相の仕事も引退してもらって後は隠居生活を楽しんでもらおう、そうしよう!
「それではアドミス殿下とロザンナ様のご入場です!」
管弦楽団のバックミュージックが流れる。
扉が開き⋯⋯深紅のヴァージンロードが続く。
「さあ行こうロザンナ。 僕と君との素晴らしい未来に」
「はい、アドミス様」
こうして僕とロザンナは大聖堂の教皇のところまで歩いた。
「この偉大なるゼルベルク帝国の若き皇太子アドミス殿下と、その妻ロザンナとの婚姻を始めます」
なんかもったいぶったジジイの祝辞が続く。
この時の僕はそんな与太話を聞かずに、この後のロザンナとの誓いのキスの事ばっかり考えていた。
⋯⋯まあ昨夜は練習いっぱいしたから 失敗はしないけどね!
何度キスしても恥ずかしがるロザンナは可愛かったなあ!
そんな事を考えているとやっと⋯⋯。
「それでは誓いの口づけを⋯⋯」
ふっ⋯⋯もったいぶりやがって。
まあ許してやろう、今日の僕は人生で一番ハッピーな気分なんだからな!
「ロザンナ⋯⋯これで君と僕とは永遠に一緒だ」
「はい⋯⋯アドミス様♡」
まさに人生の絶頂という瞬間だった。
そっと重なる僕とロザンナの唇がやっと⋯⋯触れる⋯⋯⋯⋯その瞬間だった。
『帝国の末裔アドミスに告げる』
「んなぁ!? 女神?」
「この声はあの洗礼式の時の!?」
微かに震えるロザンナ⋯⋯。
まあいくら怪我も無いとはいえ、いきなり火だるまになったトラウマはロザンナに残っているからな ⋯⋯。
おかげでロザンナは得意の火の魔法を上手く使えなくなってしまった。
⋯⋯おのれ、この貧乳女神め!
「おおっ!? この声は女神セレマーサ様ではないか!」
「なんですって!」
そう父が驚き、母を始めとする集まった客共も驚いている。
どうやらこの女神の声は僕たちだけでなくこの場の全ての者たちに聞こえているようだ。
『皇子アドミスに告げます。 なおコイツは私の話をちゃんと聞かないのでしかたなく民衆にも聞かせますので』
だったら聞くに値する話をしろよ!
そう自分の無能っぷりを宣言する女神だった。
『⋯⋯いいですか、このゼルベルク帝国に危機がせまっています』
「なに!?」
この僕とロザンナの幸せな結婚式にそんな事で水を差すなよ、このクソ女神!
『かつて初代皇帝となった勇者と力を合わせた聖女の2人が封印した魔王の復活が近づいています』
「なんだと! 魔王って倒してないの!? なに手抜きしてんだよ先祖は!」
しかし僕の声を無視して女神は続ける。
『封印した魔王の力を奪うためのスキルシステムでしたが⋯⋯この帝国の皇族の力が弱まり封印していた魔王が蘇る可能性が出てきたのです』
は⋯⋯なんだって? スキルシステムってなんだ?
『今こそ新しい勇者と聖女が必要なのです!』
なんのことだかわからんが⋯⋯それだけは理解した!
つまり⋯⋯僕とロザンナだな!
『勇者の資質を持つ者はそう多くはない。 だけどもその中の誰かが真なる勇者として覚醒し、聖女の祈りを込めた聖剣を手にしたとき⋯⋯この世界は救われるでしょう』
な⋯⋯なんだってー!?
つまり⋯⋯ロザンナの力で僕が勇者として覚醒するのか!?
『どうか皆さん、この世界を救ってください。 ⋯⋯今の皇帝は期待できないので』
それだけ言って女神は去って行った。
「な⋯⋯なんとい事だ? この帝国の危機だと!?」
そう崩れ落ちる父。
それに手も貸さずプルプルと震える母。
そして⋯⋯使命に燃える僕だった!
僕は倒れている父を見下して思う⋯⋯。
うん⋯⋯たしかに頼りない男だ。
これでは世界を救うなど不可能だと。
もう父の時代は終わったんだ!
これからは⋯⋯僕の時代だ!
「みな聞け!」
そう僕は大声を出す。
「アドミス様?」
不安そうなロザンナ⋯⋯大丈夫、僕がついている!
そっと僕はロザンナの手を握りしめた⋯⋯その暖かい手を。
「女神の信託があった! そう! 僕こそが世界を救う勇者であると!」
おお~⋯⋯と、どよめく群衆たち。
その視線を集めても物おじしない僕のこの勇者の器よ⋯⋯。
「結婚は中止だ! だけど⋯⋯世界を救ったあとでちゃんとするから待っててくれ! この僕⋯⋯アドミス・ゼルベルクが勇者として魔王を完全にやっつけてからな!」
うおおおおっ⋯⋯と最高潮になる民衆の声!
来たな⋯⋯僕の時代が!
「君の力が必要だ。 来てくれるよね、僕の聖女ロザンナ」
「はい、お供します。 アドミス様のためならどこまでも⋯⋯♡」
そしてようやくフラフラと立ち上がった父が。
「た⋯⋯頼んだぞ息子よ! わしに代わってこの国を救ってくれ! がんばれー!」
「⋯⋯不安しかない」
身の程を知り僕に全てをゆだねる父。
未だに息子を束縛して成長を妨げる母。
だが安心しろ!
この僕が世界を救うんだ!
「任せておけ! この真の勇者アドミス様に!」
⋯⋯この日、ゼルベルク帝国の若き皇太子アドミスが勇者として旅立ったと、世界中に知れ渡るのだった。
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