#001 セレーナは婚約破棄される
「セレーナ! お前との婚約を破棄させてもらうぞ!」
それはこの国の貴族が集う夜会での出来事でした。
「婚約破棄⋯⋯ですか?」
「そうだ! お前は俺の婚約者にふさわしくないからな!」
周囲の貴族の方々も困惑で見ています。
もちろん私も困惑してますが⋯⋯?
「あの⋯⋯私とアドミス皇子との婚約は皇帝陛下と大聖堂の合意によって決められたもので⋯⋯⋯⋯私達の一存では破棄など不可能なのではないでしょうか?」
これは事実です。
このゼルベルク帝国の未来のためにこの国を継がれるアドミス皇子と大聖堂で育てられた聖女の中で最も優秀だった私との婚姻は⋯⋯。
⋯⋯それを破棄?
「俺様の一存で破棄する、当然だろ? だって俺様の結婚なんだぞ! この先ずっと過ごすことになる俺の妻を選ぶんだ! 俺様の意志で決めるべきだろう!」
「⋯⋯なんという事を」
この人はなにもわかってないのですか?
皇帝家の血筋に大いなる精霊の加護を宿すための私との結婚の意味が⋯⋯。
「では皇子様はいったいどなたと結婚されるのでしょうか?」
「そうだな⋯⋯では紹介しよう!」
そう気取ったアドミス皇子のフィンガースナップの音でこの舞踏会の会場に現れたのは⋯⋯!?
「⋯⋯ロザンナさん?」
「様をつけなさい、この平民風情が。 不敬ですわよ! おほほほほっ!」
それは私と違って豪華なドレスを着たロザンナさんでした。
この人も私と同じ聖女候補生で⋯⋯戒律では公の場では聖女服の着用が義務付けられているのですが
⋯⋯⋯⋯めっちゃ派手に胸の開いたドレスを着てますね。
ばいんばいんです。
「見ろ! このロザンナの美しさと美貌を! そのみすぼらしいお前の姿とは大違いだ!」
「みすぼらしい? この大聖堂の聖女服が⋯⋯ですか?」
「違う! ⋯⋯まあそれもあるが。 俺の言いたいお前のみすぼらしさとはその老婆のような白髪だよ!」
たしかに私の髪の毛は白髪に見えなくもないですが⋯⋯。
「あの皇子⋯⋯私の髪色は銀髪なんですが?」
「銀? 俺には魔力を使い切った出涸らしの老婆にしか見えんな、お前のその醜い髪は!」
すごい偏見ですね⋯⋯。
髪の色とその人の魔力資質は同じようになる傾向があるので銀髪はかなり聖女向きの資質なんですがね。
ちなみに皇子が美しいとおっしゃるロザンナさんの髪色は赤髪です。
まあたしかに燃えるような情熱の色で美しさと気品は感じますが⋯⋯あんまり聖女向きの魔力資質ではありません。
「しかしアドミス皇子。 この国一番の聖女の私と皇子の婚姻は決まっている事で⋯⋯」
そうもう一度だけ私は食い下がりますが⋯⋯。
「この国一番の聖女? お前が? まだ死者復活も欠損再生も使えぬ半端物のお前が?」
「たしかに私はまだ死者復活などの伝説級の聖魔法は使えませんが⋯⋯」
「だろ? そこへいくとこのロザンナはすでに立派な聖女でありながら努力家だ! いずれ死者復活も使えるはずだ! お前と違ってな!」
⋯⋯?
ロザンナさんが努力家?
まあ確かに気に入らない他の聖女候補の方への陰湿な嫌がらせには努力してましたけど。
私もけっこう目の敵にされてましたしね⋯⋯。
「そうですわ! 私なら必ずやセレーナには到底及ばない大聖女に成ってみせますわ! おーほっほっほっ!」
そう高らかに高笑いするロザンナさんでした。
⋯⋯さてどうしよう?
私のこの聖女としての地位と皇子の婚約者という立場⋯⋯。
はたして未練があるのか?
⋯⋯⋯⋯無いな。
正直いままで考えないように生きてきましたが⋯⋯このアドミス皇子とこの先一緒に暮らしてなおかつ子供まで産んで育てるしか生き方が選べない人生にはまったく魅力がない。
⋯⋯というのが私の結論でした。
「⋯⋯では私はアドミス皇子様の婚約者にはふさわしくないようなのでこの刻印をお返ししますね」
それは私の左手の甲に刻まれた精霊刻印です。
対となる刻印は今までアドミス皇子の右手にありました。
「そうだな! 忘れるところだった! さあそれを返すんだなセレーナ」
「⋯⋯はい」
私は左手を差し出しその刻印を皇子に返却した。
⋯⋯すると!?
私を今まで圧迫していた魔力の枷が一気に無くなって体が軽くなりました。
「まったくこの俺様の高貴なる魔力がお前のような女に使われていたと思うともったいないとしか言えんな!」
⋯⋯あの、今まで私の魔力が皇子に流れていたんですが⋯⋯⋯⋯気づいてなかったんですね?
「アドミス様! その刻印を早く私にちょうだい!」
「おお! そうだな! 可愛い俺のロザンナにプレゼントだ!」
そして今度はその皇子の左手に回収された刻印がロザンナさんの左手に移りました。
それを見て恍惚と勝ち誇った表情のロザンナさんです。
「ふふ⋯⋯この溢れる魔力の証明。 セレーナでさえコレのおかげで聖女になれてたのだから私ならすでに大聖女も同然ですわ! おっほっほっ!」
もしも今ロザンナさんの魔力が底上げされたのなら、その魔力は今まで皇子以下だった事になります。
その刻印は2人分の魔力を共有するくらいの効果ですからね。
⋯⋯才能はあったんだけどなあロザンナさん。
ライバルを蹴落とす事ばっかりやってて修業をおろそかにするから伸びなかったんだなきっと。
とはいうものの⋯⋯私も人の事は言えない。
私も聖女としては伸びしろがもう無いと思っていた頃だったので。
もっと修業を積む時間が欲しかったけど皇子に婚約者として連れまわされる時間が多くなってたからなあ。
でもまあ⋯⋯これでいいか。
「ではロザンナさん、これからはアドミス皇子の事をよろしくお願いしますね」
「はあ? 何様のつもり?」
「そうだぞ! 貴様なんぞに言われんでも俺とロザンナは上手くやっていくさ!」
まあいいや。
後の事はもう私⋯⋯しーらないっと。
「⋯⋯それではお目汚し失礼しました。 これでお別れです、アドミス皇子様」
まあ最後くらいは礼儀正しくお別れしよう。
「おう行け! どこへなりともな!」
「おほほっ! セレーナにはあのカビ臭い大聖堂がお似合いよ!」
⋯⋯私はもう一瞥もなくこの場を後にしました。
それと大聖堂に戻るつもりもありません。
⋯⋯戻ると絶対にめんどくさいから、また皇子とヨリを戻せとか絶対に言われるだろうからこのままオサラバです!
そして私は舞踏会場を出てやっと⋯⋯。
「自由だ⋯⋯」
今まで私は周りに決められた人生しかなかった。
しかし今やっと解放されたのだ!
これで本当に自分の意志で生きていく事が出来るのだと。
「とりあえずこの国を出ましょう。 ⋯⋯それからは」
私の夢を叶える。
⋯⋯冒険者になるという夢を!
それは大聖堂のつらい修行の日々において唯一の娯楽だった。
大聖堂にやってきた旅芸人の一座の演じる冒険者や英雄のような旅をしてみたい!
もう閉じ込められる人生はまっぴらです!
こうして私⋯⋯セレーナの冒険が始まったのでした!
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