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プロローグ

    30XX年

 ……世界は終焉を迎えようとしている。

 野は焼け、水は跡形もなくなり、目に映るのは空高く孤高に浮かぶ魔神「カース・オブ・サン」とそいつの支配に苦しみ、争いあう民の姿しか残ってはいなかった。


 そう……神は滅びたのだ。俺の体は毎秒燃えるような痛みにさらされ、次第に力を失っていった。

 だが、この程度では俺は屈しない!


 これは、絶望の淵から立ち上がった1人の男が全ての魔神を倒し世界の平和を取り戻すまでの物語――――――――


「…ろ」

 何かが俺に話しかけている。

「…きろ」

 再び声が聞こえる。これは俺の力の覚醒なのでは…

「起きろって言ってるだろうが!」

 一際大きな声と共に俺は起きる。辺りは多くの人が行き交う商店街だ。俺はその中にある木陰のベンチで寝ていたようだ。

「この猛暑に人を呼び出しておいて寝てるなんて何様だよ。青葉。」

 寺石てらいし じん──十八歳、は呆れた顔で俺を見下ろしていた。

 俺はその言葉を片耳で受け流しながら、ベンチに座ったまま手を差し出す。

 「そんなことより、飲み物持ってないか? 寺石。」

 物乞いするような仕草に、寺石は深くため息をついた。

 しぶしぶとカバンを漁り、水の入ったペットボトルを取り出して俺に投げる。

 「せんきゅーな! これで世界の平和も救われた……」

 ペットボトルをキャッチしながら、ふざけたセリフを言うと、寺石はこめかみに手を当てて、心底疲れた様子で呟いた。

 「……何を言ってるんだか。」

 その態度に構うことなく、俺は勢いよく水をあおる。

 冷たい液体が喉を潤し、ようやく意識がまともに戻ってきた。

 「それで、今日、僕を呼び出した理由はなんだ? またどうでもいいことじゃないよな。」

 鋭い眼差しを向けてくる寺石に、俺は自信満々に言う。

 「聞いて驚くなよ、今日はなんと……」

 俺はためにためた。寺石の呆れ顔を見飽きるほどに眺めながら、それでもなお、ためた。

 そして、満を持して宣言した。

 「心霊スポットに行きまーす!」

 言い終わるが早いか、寺石は無言でくるりと背を向け、帰ろうと歩き出す。

 慌てて俺は立ち上がり、彼のカバンにしがみついた。

 「ちょ、待って!行かないで!」

 必死に引き止めながら、俺は涙目で見上げる。

 まるで捨てられる子犬のように。

「青葉、君は怖いの苦手なんだろ。なんでまた心霊スポットになんて行きたがるんだよ。」


 寺石は歩きながら、呆れたように問いかけてきた。

 彼の言葉は正しい。俺は怖いのが苦手だ。夜のトイレも、できれば家の明かりを全点灯で行きたい派だ。

 だが、それとこれとは話が別だ。


 「怖いものにほど、おもしろいストーリーがあるもんなんだ。」

 俺は胸を張って言い放つ。

 「実際に行って、実際に見て、実際に感じることによって、その小説には命が吹き込まれるんだ!」


 そう、俺──青葉あおば 陽緋はるひ、十八歳。

 小説家になることを目指し、日々おもしろい物語の材料探しに奔走している。

 命がけだろうと、胃がキリキリしようと、ネタになるなら行くしかないのだ。


「それっぽいことを……。アイスくらいは奢ってな。」

 寺石は仕方がないと一息ついた。

「もちろんだぜ!高いのでもなんでも奢りますぞ。」


  俺たちは商店街を抜け、少しずつ人通りの少ない道を進んでいった。

 空はまだ明るく、時刻は午後三時を少し回ったところ。

俺は思う。心霊スポットは夜行くから怖いのであって昼に行けばそこそこなんともないのである、多分。

「で、どんなとこなんだ?」

 寺石が、半分呆れたように尋ねる。

「ネットで見つけたんだ。」

 俺は寺石に心霊スポットの詳細を語った。

 山を半分くらい登ったとこの脇道を少し行くとトンネルが見える。中は暗いがそれといって何もなく、ただゆるく真っ直ぐな坂道らしい。地元ではそこそこ有名で、学生たちが肝試しに訪れる場所だが、最近行方不明事件が起き、立ち入りが警告されている。

 そうこう話しているうちに俺たちは目的地に着いた。

「あれ、か?」

 寺石がつぶやく。

 草木が生い茂っている道の先には山肌を削って作られたトンネルが見えた。

 昼間なのに、入口から先は墨を流し込んだような闇が広がり、外の光を一切通そうとしない。

 冷たい空気が中から吹き出し、肌を撫でるたびに背筋がぞくりとする。

「ふっ、思ったより大したことないな。」

 俺は主人公らしく、かっこよくセリフをキメた。決して強がっている訳では無い。


「……その顔でよく言えるな。足なんか小刻みに揺れてるぞ。」

 寺石は片眉を上げて俺を一瞥する。

「べ、別にビビってねぇし! こういうのはな、雰囲気を楽しむもんなんだよ。」

「はいはい。そもそも幽霊なんて科学的に考えて、いるわけないんだよ。」

 冷めるワードトップ3に入る科学的を使われ、俺のテンションはダダ下がった。寺石はそんなこと知らねえよと言うかのように、トンネルの方へズカズカと歩き出した。その足取りは帰りの挨拶が終わったあと、走ってはいけない廊下を異常なほど速く歩く帰宅部と類似していた。

「お、おい。ちょっとは慎重に歩けよ。」

 昼間とはいえあの雰囲気のトンネルは怖いので、急いで寺石の後を追った。

 トンネルの中は、外の明るさが嘘のように薄暗かった。

 ひんやりとした湿気が肌をまとわりつき、足音がコツ、コツとやけに響く。

 やがて、奥に何かが見えてきた。

 それは……古びた鉄の扉。みっちりと閉まっており隙間がない。錆びついた蝶番が、長年の放置を物語っている。

「……こんなところに扉?」

 寺石が小さく呟いた。

「なぜトンネルの中間辺りに扉なんてあるんだろうか。ネットの情報にもなかったよな?」

 俺の頭にも同じ疑問がよぎった。ただただ普通の扉だから書くまでもなかったのだろうか。謎は深まるばかりだった。

 しかし、寺石に引き返すという選択肢は無いらしい。その証拠にドアノブを右手で強く握っていた。

「……開けるぞ。」

 俺は首を縦に振る。緊張で胸の辺りがヒヤッとした。

 寺石がドアノブをひねり、押すと、ギギィ……と金属が悲鳴を上げ、暗がりの奥へと隙間が広がった。


 その瞬間、視界の先に柔らかな光が差し込む。

 扉を押し開けると、そこはトンネルの続きではなく、木々に囲まれた小さな空間だった。

 枝の隙間から降り注ぐ陽光が、ぽつんと建つ古びた工房を照らし出している。

 瓦の一部が剥がれ落ち、壁は苔むし、窓ガラスは半分以上が割れている。

 それでも、どこか人の気配を感じさせる静けさがあった。

「……これ、なんだ?」

 寺石が低く呟く。

 俺は答えられなかった。ただ、胸の奥で何かがざわつき始めていた。

 寺石は顎に手を当てる。

「ありえない……。今、山の内部にいるはずなのに、なぜ日光が差し込んでいるんだ。」

 その通りだ。俺たちはまだ、トンネルを半分も歩いてないはずだ。ありえない……、この胸の高鳴りはなんだろうか。

 その時だった。


 ガコンッ……!


 乾いた金属音が、工房の前から響いた。

 視線を向けると、地面に倒れ伏していた何かが動いている。

  それは、二本の脚を持ち、かつて人型を模したらしい機械――二足歩行ロボだった。


 錆びついた装甲がきしみ、ひとつひとつの関節が不器用に伸びる。

 割れたセンサーらしき目が、不規則に赤く明滅しながらこちらを捉える。

「あれ……動いてないか?」

 思わず後ずさる俺の肩を、寺石が押さえた。


「……あぁ。しかも、こっちに来る。」


 ロボは、軋む音を響かせながらゆっくりと立ち上がった。

 その足取りは重く、だが確実に俺たちとの距離を詰めてくる。

 寺石は掴んでいた肩を強く引っ張り言った。

「……青葉、逃げるぞ。」

  俺と寺石は、迫ってくるロボから逃れるように振り返り、必死に来た道――扉の方へと走った。

 ギィ……! 錆びた蝶番を押しのけて扉を開け放つ。


 だが――そこに広がっていたのは、トンネルではなかった。


「……小屋、の中?」


 俺は思わず声を漏らす。

 視界の先には狭い室内。薄暗い木造の壁、棚にはびっしりと並ぶ工具や、用途不明の機械部品。窓は木の板で打ち付けられていて、外の景色は一切見えない。

「……さっきまでトンネルの中にいたはずなのに。場所が入れ替わった?」

 呆けていたのも束の間、気づくとロボが背後に立っており、食らったらただでは済まなそうな、でかいパンチが炸裂。

 それを間一髪のところで横に回避をした。「ドォンッ!」という凄まじい音と共に、俺らが通ってきた扉は一瞬にして破壊された。

 言うまでもなく絶体絶命のこの状況。なぜかずっと胸が高鳴るばかり。今ここでやられたらもったいない。このピンチ、必ずものにしてやる!

 俺はすぐ体勢を立て直し、走り出した。が、寺石は足がすくんで動けなくなっていた。幸いロボは俺を狙って追いかけて来た。その巨体からは想像のつかない速度で迫り来る。

「逃げろ、寺石!俺はあとから追いつく!」

 状況に身を任せながらできもしない言葉を吐く。

 寺石は少し迷ったが、すぐに青葉に従い逃げ始めた。

「青葉!絶対に死ぬなよ!」

 そう言うと、寺石は林の中に消えた。それを確認し安堵したのも束の間、ロボはズカズカと近づいてきて、パンチを何発も繰り出す。全てギリギリでかわすが、反撃する隙も逃げる隙も、どこにも見当たらない。避けるのに神経を注いだが、ロボの学習能力が高いのか、だんだん回避場所を読まれ、ついに直撃してしまった。

「カハッ」

 そのまま吹っ飛ばされ木にぶつかり、俺はその場でダウンしてしまった。手足が痺れて動けない。意識が遠のいていく。

 寺石ごめん、死んでしまいそうだ。これで終わりなのか。終わりといえば「」の最終巻読んでなかった。

 そんなまだまだ余裕がありそうなことを頭の中で思いながら、意識はブラックアウトしていった。

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