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第一話。別れと出会い。


 「や、だからさ、中二病は冷めた男以外は重度軽度はあれど割と発症すると思うのよ!! 自分が特別だと認識したいわけですなっ」


 「あー、誰かに自分を認めてほしいわけですね」


 「そうとも言うが、なんかこう、変わりたいというか……何でお前はそんなに冷めてんですかっ」


 ギャンギャンと吼える、短く刈り上げられた茶髪の少年と、それを適当にあしらう黒髪が少し長い、線の細い少年が交差点で信号待ちをしている。夕暮れ時の道は学生や買い物帰りの主婦が多く、二人の周りにも数人信号待ちをしていた。黒髪の少年は思春期特有の夢見がちな友との青春迸る会話が些か恥ずかしかったが無視するわけにもいかず、うんざりしながら話を続ける。


 「僕は冷めてるわけではないよ、熱しにくいだけで。て言うか藤見君はなんでそんなに燃えてるの?」


 「お前は低温やけどしそうなほど冷めてると思うけどな!! いやー、やっぱり高校生って大体一度しかないじゃん? 恋に部活に友情に、そこそこ勉強なんてして、良い思い出にしたいんだよ。そうするにはさ、夢見がちでも何でも良いから元気でいないとって思うんだよ」


 「へーん……。藤見君は今……と言うか日々が楽しい?」


 「おー、楽しいぜっ。これで彼女が居たら文句なしなんだけどなー。どうしたらモテるんだっ」


 無駄に熱くて常にハイテンションなのを少し控えればいいんじゃないかと、少年は思ったが、それを言うとややこしいことになるのが目に見えているので適当に流し辺りを見回す。

 割と大きな交差点なのに、すぐそばに小さな公園がある安全策が微妙なところ。当然親が付き添って遊ばせているのだがどうなのだろう。不意にボールが道路に転がり運悪く車が来たりして人身事故になったりしそうで「危ない!!」よなぁ。


 何て考えていると、不意に友人である藤見の声と甲高いブレーキ音、つんざく悲鳴が聞こえ、目を前に向ける。

 突き飛ばされたのか、尻餅をついて反対側の歩道に居る少年と、突き飛ばしたことで硬直し、更に目前に迫ったトラックという暴力に硬直した友人。

 やれやれ、これだから未来を視る人間は……。なんて、ドロップキックをかまして友人を突き飛ばした後に考え、たいがい僕も馬鹿だよなぁ。何て考えながら、


 血と肉と骨が潰れる音を最後に聞き、少年は意識を失った。


◆◆◆



 そこはとある小屋。腹の膨らんだ銀髪碧眼のうら若い女性が冷や汗を流していた。糸に鋏、沢山の清潔な布に人肌の温度の湯。今ここで、たった一人で、新たな生命を産もうとしている。息は乱れ、痛みはもはや苦しみにしか感じず、冷や汗は止まりそうにない。早く異物を産み落としてしまいたい。息を深く吸い、両手を握りしめ、全身全霊で叫んだ。


 「ふっ、ああぁぁぁぁぁああぁああ!!」


 瞬間、開放感を覚え、漸く産めたのだと思い一瞬気を失い、赤子の泣き声で我に返る。


 「………はっ。いけないいけない。シャンとしなきゃ」


 タオルを何枚も重ねた所にいる、まだ繋がった我が子を女性は見た。小さく赤い体、銀灰色の産毛、本当に猿のような顔。股を見ればどうやら男の子のようだ。自分の髪色と同じ事に笑みをこぼし、てきぱきとやるべき事をやる。へその緒を切り、湯で羊水や血を落とし、しっかり拭くときれいな布で包む。抱きかかえた体は軽く、本当に脆弱で、とても愛おしく思える。


 「うふふ。初めまして私の赤ちゃん。私はアウローラ・ウィンディ。ママですよー」


 にこにこにこにこ、緩みきった表情で赤子の頬をつつく。柔らかくプニプニした頬。小さい手に指をやるとキュッと握られる。ニコニコがニヤニヤに変わった。


 「えへ、えへへ。可愛い可愛い可愛いなー。他の人の赤ちゃんは猿みたいだったのに、自分の子だと天使に思えるのね」


 額に瞼に頬にキスを落とす。ちょっと舐めちゃったりもする。ついでに頬を吸ってみたり。親馬鹿だった。というより馬鹿だった。そうしていると赤子の瞼が少し開かれ、眼が合った。角度によっては黒に見える濃い茶色の瞳が綺麗だ。


 「うふふ。綺麗な茶色い瞳……少し猫眼ね。よし、貴方の名前はレイン・ウィンディよ。宜しくねレイン」


 ほんの少し強くなった指を握る力に、気に入ったんだなと想い、もう一度額にキスを落とした。


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