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第0話
雨が降っていた。
真っ黒な雨。
街中から聞こえていた悲鳴は、怒号は、絶叫は、今はもう遠くなっていた。
穴だらけになった地面。
溜まった泥水。
崩れた家、瓦礫の山
ちぎれた電線が濡れて火花を散らしていた。
そんな風景を炎が包む。
それがさらに、雨に沈む。
蒸した土の匂いの中にひとの焦げた臭いが混ざって、感じたことのない気持ち悪さに何度も嘔吐した。
浅い呼吸を繰り返しながら、ぬかるんだ地面を小さな足取りで懸命に進む。
そこら中に転がるひとのなかに、父さんと母さん、妹を探した。
いないのは分かっていた。
膝をついて、泥の中に倒れ込む。
炎が赤く染め上げる夜の空に、白くて大きな影が見える。
薄れて行く意識の中で、最後に、ぼくは、その白い影へ立ち向かう真っ黒な巨人の姿を見た。