②『嫉妬ってなんですか?』
午後の謁見を終えたアーサーは、執務室に戻る途中でふと振り返った。
少し離れた廊下の陰から、こちらを見ている影がある。
「ああ……またベルか」
このところ、ベルはよく王宮に遊びに来る。
けれど“王子の婚約者”という立場にしては、あまりにマイペースだ。
たとえば今日も――
「アーサーさま~っ、すみません、ちょっと寄り道してたら迷っちゃって……えへへ」
「……ここ、来るの三回目だろう」
「方向音痴にも優しくしてくださいっ♪」
そんな彼女をよそに、王子の周囲には今日も貴族の令嬢たちがちらちらと寄ってくる。
「アーサー様、例の詩集、読みましたわ♡」
「最近、お好みのお茶はどちらで……?」
いつものことである。
けれど、その様子を見ているベルが──
まったく動じていない。
王子はふと不満を覚えた。
(なぜ……嫉妬しない?)
その日の夕方。
アーサーは珍しく自ら声をかけた。
「お前は……他の女が私に言い寄ってきても、何も思わないのか?」
「え? ああ、そうですねー……」
ベルは、うんうんと頷いた。
「だってアーサーさまは、アーサーさまですから!」
「…………それは……どういう意味だ?」
「好きなのは、私ですけど。他の人に話しかけられたくらいで、私のアーサーさまが変わるわけじゃないですもん」
にこ、と笑うベル。
──その瞬間、アーサーの中で何かが崩壊した。
(なるほど……そうか……)
嫉妬は、自分の問題だったのだ。
ベルは変わらない。
けれど、王子の心は完全に振り回されていた。
「…………っ。まったく、お前というやつは……」
「え? なにか言いました?」
「……いや。もう少し、私のそばを離れるな」
「えへへ~っ、はーい♡」