①『おべんとう事件』
王宮の中庭、昼下がりの陽ざし。
噴水のそばでランチタイムを迎えたアーサー王子は、書類を片手にぼんやりと空を見上げていた。
そこに、弾けるような声が響いた。
「アーサーさまっ!お弁当、作ってきました~♪」
いつものように笑顔満開で駆け寄ってきたのは、婚約者であり、天然系で名を馳せつつある少女――ベルナデッド。
王子は少し警戒した。
なぜなら、彼女は「料理は、気持ちが大事なんです!」と毎回胸を張るタイプだからだ。
「……ふむ。では見せてみるといい」
「はいっ!」
ベルはお弁当箱を開けた。
そこには、まるで魔術師が具現化したかのような未知の料理群が広がっていた。
「これが、ハートのオムレツ、で。こっちは、ええと、アーサーさまの笑顔をイメージしたサラダで……こっちは、えへへ、思いつきで入れてみました♡」
「……これは……なんだ?」
「さつまいもとマシュマロの……ラブ混ぜ?」
「ラブ混ぜ?」
「気持ちを混ぜましたっ!」
王子はお箸を持つ手を一度止めた。
だが、ベルがキラキラと目を輝かせて見つめている以上、逃げ場はない。
「……(これはもはや戦場だな……)」
覚悟を決めて一口。
――予想より甘い。
「……ふむ、これは……なるほど」
「お、お口に合いませんでしたかっ?」
「いや。……お前らしい、味だ」
「わあい♡ もっと食べてくださいね!」
こうして、アーサー王子はこの日、心と味覚の限界に挑戦したのだった。