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ある少女の、噂と。

「穏やかじゃない、穏やかじゃないぞお⋯」


 自室の椅子に座り、頭を抱えながらそう呟いた私にラテルは不思議そうに首を傾けた。


「何のこと?今日は学園でも特に問題は起こってないよね?今は家にいるから問題は起こりようも無いし⋯」


 確かにあの大きな猫の事件から数週間経った今、これといって問題も事件も無い。少し退屈にも感じる平凡な日常だ。だと言うにも関わらず私を悩ませる問題があった。


「学園の噂の事だよ、最近有名でしょ?皇太子とお嬢様がお熱だって噂。それとそれに対して生徒達が良い印象を持ってないってこと。」


「あぁ、それかぁ⋯」


 私がお嬢様の偵察に行った日も皇太子はお嬢様に話しかけていた。周りの噂から聞くと学園入学の日からずっとあの方々は交友関係があるらしい。


 その事実に対し生徒達は納得いかないらしい。皇太子は未だに婚約者も婚約者候補もいないため、その座を狙うご令嬢達はお嬢様に対して強い敵意を持っているようだ。


 原因はそれだけでは無い。普通科への偏見もある。普通科は他のどの科にも入れない、秀でた才の無い貴族の入る科であり、裏では落ちこぼれと言われている。だから高位貴族とはいえ普通科のお嬢様を認めたくないのだろう。


「それに噂だけなら良いんだけど、お嬢様に直接暴言?誹謗通称?を言う人もいるらしくて⋯暴力的ないじめは無い様なんだけど、」


「それで?姉ちゃんはそのお嬢様をどうしたいの、助けたい?⋯正直に言うと難しいと思うよ。人間の感情は簡単に制御出来るものじゃないし。」


 少し強い口調でラテルは言った。ラテルはお嬢様の話題になると機嫌が少しだけ悪くなる。一周目で私が死ぬ要因になった人だからだろう。


「いや、助けたいとかはそんなに無いんだけど⋯というか、それって学園の生徒全員、つまり貴族を敵にするって事でしょ?私には出来ない、多少良心は痛むけど。それより私は皇太子の思考回路がよく分かんないんだよね、お嬢様の事を本当に友好的に思ってるはずなら距離を取ったり何か対策をする筈でしょ?」


 思っていたことをそのまま口に出すとラテルは安心した様な表情に変わった。


「⋯まぁ、そもそも皇太子が好きなのはそのお嬢様じゃ無くて平民の聖女候補だから。」


「⋯え?」


この世界って悪役令嬢の愛され系じゃ無かったっけ?


 思わず呟きそうになった言葉を何とか飲み込んだ。



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