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ある少年の、幼き日。

ラテル視点の前話です。

 「姉ちゃん、姉ちゃん起きてー」


 寝起きが悪く、朝は何度起こしても起きない姉ちゃんを起こすのは昔から変わらない。この時間を苦に思った事は無いし、寧ろ楽しい。


 思えばこうやって起こすようになったのは、僕が小さい時のある時からだった。それまで姉ちゃんは誰より先に起きていたから。



■■■■


 物心付いたとき、それより前からいつも姉は一緒にいた。赤ん坊の時にも両親の手伝いで世話をしてくれていたらしい。そんなこんたで僕は姉が大好きだ。


 昔はずっと前を歩いているようなしっかりした印象だった気がする。朝が早い両親より先に起き、両親に何かを強請ったり、怒られる所を見たことが無かった。


 だからと言って余所余所しさが合ったわけでは合ったわけでは無い。ただ、少しだけ僕たちと一定の距離感は取っていた気がする。


 仲が悪いわけでも、仲が凄く良いわけでも無い、そんな関係が突然崩れたのはあの日の出来事が境になっていたのだろう。



 同年代、ということで親同士の関係もあり、数回会ったり遊んだことのある子供達とその日も遊んでいた。


 駆けっこだか、鬼ごっこだかをしていた時、その一人が転んだのだ。あんまり大声で泣くものだから放っておくわけにもいかず、取り敢えず声を掛けた。


「…ねえ、君大丈夫?」


 この人の名前何だっけ、なんて考えながらもおずおずと声を掛けてみたが、泣きじゃくるだけで返事が無い。


 同年代の子供より少しだけ大人びていた僕からしたら、溜息が溢れそうだった。とはいえそれじゃあ印象も悪いため出来る限りの笑顔を向け、覚えたての本で見た治癒魔法というものをかけてみた。


 すると泣きじゃくっていた子供の血が出た膝小僧が光り、見る見るうちに傷が無くなった。泣きじゃくっていた子供は目を丸くしていた。


「は⋯?」


 その呟き声は目の前の少年からでは無く後ろから響いた。バッ、と振り向くとツリ目の少年が目を丸くし愕然とした様な表情をしていた。確か彼は子ども達のガキ大将的な存在だった。


「お前、今の、治癒魔法⋯っ!」


 そう呟くと少年は俯いた。よく見ると身体がプルプルと小刻みに震えている。その間に散らばっていた他の子供達もぞろぞろと集まってき、様子のおかしい少年の近くに歩み寄っていった。彼らは「どうしたの」、「何が合ったの?」と声を掛けたが少年は無視して数歩こちらに歩み寄って来た。


「お前おかしいだろ!気持ち悪い!」


 顔をバッ、と上げ、いきなり吐いた言葉は暴言、人に向かって気持ち悪いと言うなんて失礼ではないだろうか。


「俺達ぐらいの子供は魔法はまだ使えないって母ちゃんが言ってたんだ!なのに何でお前は治癒魔法なんて使えんだよ!気色悪いんだよ!化け物!」


 少年がそう暴言を吐いた時、僕の意識は別の場所へと向いていた。木陰の影に姉ちゃんがいたのだ。隠れているようだが僕の角度からだと微妙に見える。よく見ると少年の言葉に姉ちゃんは出てこようとしているのが見える。


 この瞬間、思いついたのだ。嘘泣きをすれば姉ちゃんは僕の味方をしてくれるのでは?と、この状況だけじゃ絶対的な味方として相手だけを叱る可能性は低い。ただしこちらが泣けばその状況は変わる。更に慰めるために久しぶりに抱きしめて貰えるのでは、と。


 「ラテルも大きくなって来たことだしそろそろ抱っことか嫌だよね、」と呟いている姉ちゃんを少し前に見てしまったのだ。とはいえ自分から抱っこして、とは言いにくい。羞恥心が勝ってしまう。だからこそこの好機を逃すまい。


「⋯僕だって、僕だってこんな力要らなかった!!これのせいで、皆と、姉ちゃんとも全然違う⋯!」


 姉ちゃん、という部分を強調し目一杯の嘘泣きをした。目の前の少年は普段スんとしている僕が大声を出し無き出したことに狼狽え、少し引き気味だ。


「⋯ラテルは普通だよ。皆と同じ。」


 そこに登場したのは予想通り姉ちゃんだった。ゆっくりと歩み寄り僕の前に立ち少し屈み込んだ。


「魔法が使えても使えなくても、ラテルは私の大事な弟、自慢の家族。⋯ね、だから泣かないで。」


 そう言い壊れ物に触れる様に優しく腕をまわし、抱きしめられた。計算通り、と考えながらももの凄く喜んでいる自分がいる。それを悟られないように嘘泣きに力を入れた。


「⋯君たちも、皆身長も体重も性格もバラバラでしょ?魔法も同じで個人差があるんだよ。」


 後ろの少年たちにそう声を掛けていたが僕は今ちょっと忙しいため、細かくは聞こえなかったが、ツリ目の少年の「ごめんなさい⋯。」という声が聞こえ取り敢えず「うん。」と返事をした。


 すると姉ちゃんは僕を抱え直し立ち上がった。少年達に声を掛け歩みだした姉ちゃんにツリ目の少年が声を上げた。


「ラテルの姉ちゃんも、迷惑かけてごめんなさい、」


 そう言った少年の表情は少し涙目でありながらも、頬を染め恥ずかしそうな顔をしていた。⋯こいつ、姉ちゃんに落ちたな、と直ぐにわかった。幼い少年の恋心、潰して置かなければ。


 そう考えた瞬間姉ちゃんの首に回していた腕に少し力を入れ、抱きつくような姿勢にし、少年の方に見せびらかすように笑ってやった。ツリ目の少年は目を丸くし驚いた様な表情をした。


 言葉は発さずに口パクで「あげない。」と言うと、少年は怒ったような表情になったが姉ちゃんは気付いておらず、戻ることも少年が駆け寄ってくることも無かった。




■■■


 その日以来、少しずつ姉ちゃんは寝坊をしたり両親や僕と話す事が増えた様に思う。姉ちゃんの中で何かしら心境の変化が合ったのだろう。


 ところで東洋の方のとある国の言葉で姉や妹に対して過度な愛着や執着心を持つ人の事をシスコンというらしい。それなら僕は産まれた時からずっとシスコンだ。

 

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