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ある少女の、幼き日。

一周目の過去編です。

 気が付いたら違う世界にいて、違う人達が家族になった。新しい母さんも父さんもとっても優しくて良い人達。大事な家族で両親。それでも、どこか空白感というか、喪失感があった。


 前世には小言の多い、それでも大切な両親がいて私のとっての両親と言われたらそちらを思い浮かべてしまう。けれど今世で産んで育ててくれたのはこちらの両親だからこんな事を考える私は酷い人間なのだろうか。とにかく幼かった頃の私は今世の両親の事も大切で大好きと思いながらも、どこか線を引いてしまっていた。


 そんな日々が続いていたある日、弟が産まれた。正直に言うと最初の頃は弟の存在に興味は無かった。母に「弟が出来るのよ。」と言われた時も表面では喜んでいたけれど心の底では「そうなんだ。」ぐらいの受け取り方だったのだ。


 そんな気持ちのままで対面させられた弟を母が優しく腕の中に抱いていた。第一印象は丸っこくて柔らかそうな生き物、それから守ってあげないと壊れてしまいそう、というものだった。この時から少しだけ情が湧いた。


 赤ん坊の世話は大抵は母さんか父さんがしていたけれど、どうしても手が空いていない時は私も手伝っていた。そんな中で弟に触れる事も多々あった。実際に触れてみると想像の数倍は小さくて柔らかい。一層守らないと、と思った。


 


 ある日、お腹が空いたのか泣き出した弟を母が背中を優しく擦りながらあやしている姿が目に入った。いつもしている事だったけれどその日はなぜだか注意深く見てしまった。その時に浮かんだ感情は羨望だった。


 別に母に抱き上げられてる事が羨ましかったわけでは無い。ただ両親を両親として見れる事が羨ましいと思っただけだ。面倒くさい記憶も無くただ赤ん坊として、子供として両親に接する事が出来る、なんて羨ましい事だろう、私には出来ないのに。


 それでも弟は、ラテルは可愛い大事な、守らなければいけない小さな子供で弟だ。それでも私の中で黒い気持ちはずっとグルグルと渦を巻いている。こんな自分に嫌気が差す。



 

 年月が経ち、ラテルは喋れるようになった。自らの足で歩き、自由に駆け回り、好きに話せる。ラテルの成長速度はとても速く感じたし嬉しかった。


「ランペー、ラテル迎えに行ってくれないかしら?」


 その日、ラテルは近所の広場で他の子供達と遊びに出ていた。私は家でのんびりと本を読んでいたために暇だと思われたのか母に迎えに行かされたのだ。良いところだったのに、と思ったことを覚えている。


「お前おかしいだろ!気持ち悪い!」


 広場まで行き、ラテルを探していた所いきなり大声が聞こえた。こんな暴言を吐けるなんて今どきの子供はませてるなぁ、なんて思いながらもその声の方に向かってみるとそこには数人の男児とラテルがいた。


 先程叫んでいたのはラテルの正面に立っている目付きの鋭い男児のようだ。まだ何か叫んでいる。これは仲裁に入らないと不味いやつかな、と考えつつラテルに対しての暴言の意味が気になっていた。弟自慢では無いがラテルに気持ち悪い所なんて無いと思っていたからだ。


「俺達ぐらいの子供は魔法はまだ使えないって母ちゃんが言ってたんだ!なのに何でお前は治癒魔法なんて使えんだよ!気色悪いんだよ!化け物!」


 思えばこの頃からラテルは魔法が使えていた。元から才能があったのだろう。治癒魔法を使ったというのは状況的にラテル達の後ろで座り込んだままの子が転んで怪我でもしたのだろう。助けに行くか、と出ようとした瞬間、俯いていたラテルが顔を上げた。


「⋯僕だって、僕だってこんな力要らなかった!!これのせいで、皆と、姉ちゃんとも全然違う⋯!」


 そう叫び泣き出したラテルに私は駆け寄ることも出来ずに立ち尽くしていた。ずっとラテルは悩みも無い純粋な子供だと思っていた。自分だけが周りと違って苦しんでいたのだ、と。けどそれは違った。


 ラテルだって他の子だって皆なにかしら苦しんでいると気付いた。その瞬間、私は自分の事を恥らしく思った。精神年齢的には大人だというのにいつまでも前の世界や前の家族の事ばかり。


「⋯ラテルは普通だよ。皆と同じ。」


 せめてもの償いだった。彼らにゆっくりと近付きラテルの前に立ち、目線を合わせるように少しだけ屈み込んだ。 


「魔法が使えても使えなくても、ラテルは私の大事な弟、自慢の家族。⋯ね、だから泣かないで。」


 小さな身体を優しく抱きしめそう伝えると、ラテルはより一層声を上げて泣いてしまった。慰め方を間違えたかもしれない。


「⋯君たちも、皆身長も体重も性格もバラバラでしょ?魔法も同じで個人差があるんだよ。」


 呆然と立っていた後ろの子供達に目線だけ向け問いかけ、ラテルの背中を優しく擦る。同時進行だなんてお姉さんは大変だ。


「でっ、でも⋯」


「でもじゃない。謝って。」


 少し強めの口調で言うと子供達は小さな声で「⋯ごめんなさい。」と言った。ラテルは私に抱きしめられたまま「⋯うん。」と小さく一つ返事した。一段落ついた所で私はラテルを抱え直し、立ち上がった。


「それじゃあ、私はラテルと帰るから君達も気をつけて帰りなさいよ。」


 重くなったなぁ、なんて考えながらも一言伝えた。


「ラテルの姉ちゃんも、迷惑かけてごめんなさい、」


 ラテルが数回遊んでいる彼らとは私も数回送迎で会ったことがあるとはいえ、殆どしらない年上の人間。子供達からしたら十分怖い存在だろう。そう考えながら「良いよ。」と短く伝えた。


 広場から家までは少しだけ距離がある。日が落ちかける道をラテルを抱えながら歩く。周囲の住宅から夕飯の香りが漂ってくる。


「姉ちゃん、ごめんね。⋯ありがとう。」


 私に抱えられ顔を突っ伏していたラテルは顔を上げ可愛らしい笑顔を浮かべた。


「ううん。大した事無いよ。」


 この日から私は晴れてブラコンとなった。



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