ある少女の、複雑。
「それより姉ちゃんってあんな作り笑顔作れたんだね」
その言葉の意味を理解するのに数秒掛かった。作り笑顔なんてしていただろうか、と考えたが確かにラテルの笑顔を真似していたような気がする。
「そういえばしてたね。そんなに作り笑顔っぽかった?自然に笑ってた気がしたんだけど。」
「他の人が見る分には大丈夫だと思うよ、僕もちょっと驚いたしね。でも僕や母さん、父さんなら作り笑いって分かるよ。っていうか姉ちゃんが常時笑ってるなんて以上でしか無いし、ちょっと怖いね⋯」
乾いた笑みを浮かべ、遠い目をしながらそう話すラテルにそこまで言う事か?と思い、少し悲しい。確かに私は普段は表情筋が動く事は少ないけど⋯
「ランペちゃーん!!」
聞き覚えのあるソプラノ声が響いた瞬間、身体に大きな衝撃がぶつかった。「グヘッ」と声が漏れ倒れそうになるのを何とか力んで堪えた。この衝撃は一周目の時のラテル以来だ。衝撃が強かった所へ視線を向けるとやはり抱きついていたのはルクスちゃんだった。
「ルッ、ルクスちゃん、ギブ、ギブ!内蔵飛び出る、」
な、何という腕力⋯こちらも離そうとするけれど全く離れない。本当に肋が折れてしまう⋯!
「グッ、グヘッ⋯」
「ねっ、姉ちゃん!おっ、お前!離れろよー!」
ラテルの助力もあり、何とかルクスちゃんを離すことに成功したが私は既に虫の息だ。
「あっ、ランペちゃんごめん!!つい、勢い余って⋯」
「い、いや、大丈夫だよ⋯」
「ご、ごめんねー!」と大声で謝るルクスちゃんの姿は愛らしいが、彼女の腕力の将来を考えると末恐ろしい。ラテルは先程から「大丈夫?」と私の背中を擦ってくれている。その事に「ありがと、大丈夫⋯」と 短く返事をした。
「と、ところでルクスちゃんは何処に行ってたの?」
「んーとね、裏庭の猫を見に行ってたの!とっても可愛いんだよ!!」
そう言いながら頬を緩ませるルクスちゃんは嘘をついているようには見えないし、何より愛らしい。
「そっか、今度は私も連れて行ってね。見てみたいから、」
「うん!良いよ!!」
頷きながらそういう彼女を見ていると心が和むのと同時に、視界の端で疑いの目でルクスちゃんを見るラテルの姿に複雑な気持ちになった。




