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ある少女の、怖っ。

「⋯暇。」


 現在、学業に勤しむ学生達の憩いの時間、昼休憩時間。私は今、暇を持て余していた。あの入学式の日以来、学園での平穏で正直退屈な日々が続いていた。最初に見た時は豪華で大きな建物や装飾に驚いていたが、数日も経つと飽きてくる。


 普段一緒にいるルクスちゃんは昼ご飯を食べた後、「用事がある!!」と言って駆け出していってしまった。自由な子だ。よく一緒にいる子のもう一人であるラテルは昼休憩の始めから姿を現していない。


 いつもなら授業終了の鐘が鳴ったら直ぐに私の教室に来るというのに珍しい、どうしたのだろうか。⋯とにかく、私は暇している。昼休憩時間はまだまだあるし、どうしたものか。



 自分の座席に座ったままぼーっと窓の外へと視線を向けた。今日も綺麗な快晴である。そのまま外を見ていると、バサバサ、という音をたてながら木から鳥が飛び去っていった。反動で木が揺れている。


 ⋯私も動いてみないと何も変わらないか。鳥が飛び立つ姿から何故かそんな考えが思い浮かび椅子から立ち上がり、教室を出た。



 突然立ち上がって出てきたわけなので行先は決まっていない。ラテルを探しに魔法特化科の教室に行く、というのもあり、⋯否、もしかしたらラテルにも用事があるのかもしれないし辞めておこう。


 ラテルの所にも行かない、となると何処に向かおうか、そう考えながらも廊下をトボトボと歩いていた。この学園はどうも廊下で会話をしたり、歩いている人が多く一人でポツンと立っているのは精神的に出来ない。人の目が気になる。



 そのまま行き先も決まらずに進んでいるとある一つの教室に視線が止まり、立ち止まった。そこは普通科、と記されている。


 普通科、と言われて思い浮かぶ人間は一人だけ、ペカタムお嬢様だ。入学式の時以来見ていなかったその姿が見られるかもしれない、と思い浮かび覗いてみることにした。


 教室を覗き見ることが出来るのはある一箇所だけ。あの大きな扉は開けると絶対に直ぐに見つかってしまうためだめだ。そこで使えるのが教室横の大きな窓だ。覗きには定番のあの教室の窓だ。


 見つからないように壁の端によって窓の方に顔を出す形で覗いて見る。教室の中には数人しかいない様でその数人も殆ど談笑している。そんな教室の中で一人だけ参考書に視線を落とし、熱心に何かを記し自習している人間が一人。誰かなんて考えなくてもわかる。あの特徴的な赤い髪の毛はお嬢様だ。


 あの人が真面目に勉強をしているだなんて予想外だ。そんな真面目な人じゃなかったはずだ。見間違いなのでは無いかと目を擦ってからもう一度見てみても別人、なんて事は無くお嬢様だ。


 私の予想では学園で作った友人達などと談笑していると思っていたのだけれど、おかしいぞ⋯。そう考えながらもこれ以上見てバレでもしたら面倒だと思い、顔を引っ込めて後ろに振り返ると見覚えのある顔をした高身長な男がいた。


「⋯っ!」


「⋯何をしていたんですか?」

 

 その人間はあの日、一周目の時に一度だけ見た胡散臭そうな皇太子だった。訝しげなその視線と表情からは疑い、という感情が伝わってくる。


「ここは普通科ですよ?ここは貴方の教室ではない。ねぇ、勉学特化科のランペ・イニアル。」


 恨めしげにそう言ってくる皇太子からは強い敵意を感じる。否、そんな事より⋯!


「いえ、昼休憩に勉強に励んでいる素晴らしい方を見かけたので少し気になって。見習いたいものですね。⋯ところで皇太子殿下、何故私の名を?」


 こちらが動揺している事を勘付かれないよう、ラテルがするような人好きそうな笑顔で言葉を発する。こいつ、隙を見せると危険な気がする。


「⋯ペカタム嬢か。確かに彼女は素晴らしいな。とはいえ私を抜かして試験順位で二位という優秀な成績を残したイニアルには必要の無い努力なのでは?あぁ、もしやペカタム嬢に対する皮肉か?」


 そう言いながら軽蔑する様な視線を向けてきた。それにお嬢様に対し、素晴らしいといった言葉なんか全く感情の籠もっていない目だったんですが?


「そんな、まさか!私もまだまだ、ですから。一位は逃してしまいましたし。」


 私が目線を下に下げながら悔しそうな表情を作り出すと、今度は皇太子が馬鹿にしたような表情へとかわった。


「そうだったな!一位は貴方の弟であるラテル・イニアルだった。⋯ならば次は弟に負けないように励むと良いよ。」


 ニコニコと笑いながら、その顔とは対照的な冷たい瞳を向けてそう言い放った後、皇太子は普通科の扉を開けて中に入っていった。


 もう一度窓の方に視線を戻すと、お嬢様に対し友好的な笑顔を向けながら話しかけている姿が見えた。とはいえその表情は相変わらず胡散臭い。あの時に抱いた胡散臭い、という印象は間違っていなかったようだ。


「姉ちゃん!!」


 今度は後ろから声が掛かった。驚き過ぎて心臓がバクバクと鳴っている。平静を装いながら振り向くと焦ったような顔をしたラテルがいた。


「大丈夫だった!?⋯って、一旦ここから離れるのが先か!」


 焦った様子で私の腕を引き、ラテルが急いだ様に歩き出した。先程から私は驚きすぎて一言も発せない。突然現れたことはしかり、ラテルがいきなり歩き出したこともだ。


「どっ、どうしたの?そんな急いで。」


「そんな、急いでって。そりゃ、あの皇太子がいたからで⋯あー、とにかく!何もされてないよね!?」


 いつも以上に余裕の無いラテルに対して、頷き返し一端疑問は置いておく事にした。それにしてもあの皇太子、一体何だったんだ。




 



 _この時、私は気づけていなかった。お嬢様と皇太子が会話をしている所に刺さるそれはそれは大きくて冷たい悪意の存在に。

 

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