ある少女と、話を。
馬車がガタゴトと揺れる音と風や葉擦れの音、それから周りから聞こえる人々の声。そんな音が溢れる中、私の周りだけが静寂だった。
右を見ると機嫌の悪そうなラテル。左を見るとご機嫌な様子のルクスちゃん。両隣の空気感がまるで違う。入学式の時もこうだったが、どうやらこれが定位置に決まってしまったらしい。本当に何故こんなに空気感が悪くなるのだ⋯
あの授業が終了後、私達は帰宅するように指示を出された。その指示通りに帰宅しようとした時、ルクスちゃんから「一緒に帰ろう!!」というお誘いを受け、「ラテルもいるけどそれで良い?」と許可を取った所了承を頂き、一緒に外へと出た。
待ち合わせの場所にしていた校門の前に行くとラテルが待っていた。私が来たことに気付いたラテルは笑顔で顔を向けたが、ルクスちゃんを見るとスン、という表情に変わった。
それから今までずっとこの調子だ。気を利かせて何か喋ろうとはしたものの、全く会話が続かない。そこからは私も諦めてただひたすらに前だけに視線を向けていた。
「ランペちゃん、ありがとうね!」
「⋯ん?」
機嫌良さそうに笑いながら足をプラプラと揺らしていたルクスちゃんが突然こちらを向いて話しだした。唐突だったものだから私も少し驚いた。
「私ね。今まで人のお友達いなかったから。動物のお友達ならいっぱいいたんだけどね!」
動物の友達というのは、ルクスちゃんの家の牧場にいる子達の事だろうか。でも確かにあの辺は近くに集落も家も無いから同年代の子供なんていなかったのだろう。
「⋯すっごく嬉しかったんだよ。私なんかと仲良くしてくれて。だから、ありがとう!!」
いつもの様に明るい、でもいつもよりも幸せそうな笑顔でルクスちゃんは言った。
「⋯なんか、じゃないよ、ルクスちゃんといると楽しいし。⋯私の方こそ仲良くしてくれてありがとう。」
最後の言葉を言い終わる時には聞こえない程に小さくなってしまった。少し照れくさく感じ、視線を正面へと戻した。すると隣からルクスちゃんの小さい笑い声が聞こえてきた。それにつられて私も笑ってしまった。
小さな二つの笑い声も途絶え始めた頃、馬車が停車した。外を見るとそこは前にルクスちゃんが降りた停留所だった。その事にルクスちゃんも気付いたのか、荷物を持ち直し立ち上がった。
「それじゃあ、また明日!」
「うん、また。」
その言葉と同時にルクスちゃんは手を振りながら馬車から降りていった。それに対し私も小さく手を振り返した。馬車はルクスちゃんが降りたことを確認した少し後に進んだ。またガタゴトと揺れ始める。
「⋯姉ちゃん。」
隣で静かに座っていたラテルから声がかかった。




