ある少女と、馬。
「そこの角右に曲がったらそのまま真っすぐ!」
「右ね!」
先程よりは速度が原則しており、片手で掴まるだけでも振り落とされることは無いので、離したもう片方の手で魔道具をしっかりと掴んでいる。さっきの様な速さでは廊下が傷つく可能性もあり、何より危険だ。
道が有っているか確認しようと魔道具に視線を落とすと、青い光の点がもうすぐの所にあり、講堂が近いことがわかった。
「ルクスちゃん止まらせて!」
一旦止まってもらおうと声を上げると、ルクスちゃんは手綱を引っ張り減速させ止まらせた。
「⋯よしっと!、ここからどうするの?」
「ここからは歩いて行くよ。」
馬の降り方は何となく分かるので、何とか自力で降りながら話す私をルクスちゃんは不思議そうな顔で見ていた。
「何で?このまま行ったほうが速いよ?」
そう言いながらも慣れた動きで馬から降りているあたり、指示には従ってくれるらしい。
「考えてみてよ。式の準備をする人や待機している人が静かに沢山いる所に馬が勢いよく入ってきたらどうなる?」
「⋯驚かれるし、怒られる!」
その解答に頷き返すとルクスちゃんは答えられた事を嬉しそうに笑っていた。⋯とはいえこの馬はどうしようか。このまま講堂まで連れて行ったらそれはそれで怒られそうだ。
「⋯この馬って球体に戻せるかな?」
「アレキサンタリアを?うーん、出来そう?アレキサンタリア!丸く!まるーく!」
そういえばこの馬の名はそんな感じだったな、と考えながら馬、改めアレキサンタリアを眺めてみると少しの間の後、いきなり光りだした。
その姿に私もルクスちゃんも驚いて目を丸くしているとアレキサンタリアは丸い球体、つまり元の魔道具の形に戻った。その球体は落下することは無く、浮かび上がるとルクスちゃんの前まで移動した。
その球体にルクスちゃんが手を伸ばし、掴むと浮かんでいる様子は無くなった。
「⋯やっぱり凄いね、魔道具って。」
「⋯うん」
普段は破天荒なルクスちゃんも流石にこの動きに驚いたのか、目を丸くして短く返答をするだけだった。
「⋯それじゃあ、講堂向かわないと。」
「⋯そうだった!それじゃあ早速行こう!!」
そう言うと私の腕を掴み、走り出した。すっかりいつもの調子を取り戻した様子で良かった。そう考えながら自分の魔道具に視線を向けると、青い光とは逆の方向へ私の現在地の光が向かっていた。
「ルッ、ルクスちゃん!逆、そっちじゃない!」
「え!?違うの?」
私の慌てた声にルクスちゃんは少し照れたような驚いた顔をし、向きを引き返した。その様子が可笑しくて二人して笑ってしまっていた。




