ある少女、ピンチ。
人生初の騎馬で私は死ぬかもしれないと思い始めてた。あまりに強い風圧に飛ばされないようにすると、ルクスちゃんの腰に回していた腕に力が籠もる。こうしなければ絶対に振り落とされ、三回目の人生すらも終わってしまう。
命の危機を感じながらも何とか顔を上げてみると、先程まで教室だった風景からは一変、長い廊下が広がっていた。腕に込める力はそのままに、周りに視線を向けてみたけれどここが何処なのかはわからない。
⋯このままでは全く違う場所へ行ってしまうのでは無いだろうか。そうなると式に出られないどころか、馬で学園内を走った事も問題視されて退学の可能性も、⋯まずい。
「ルッ、ルクスちゃん!とっ、止めて!」
馬が走る風圧のせいで声を上げるのも一苦労だ。とはいえ至近距離なのもあり、声が聞こえたらしくルクスちゃんは手綱を引き、馬が走るのを止めた。
「⋯よし!どうかしたの?ランペちゃん!」
馬が止まった事を確認し、首の辺りを撫でると、こちらに振り返り返事を返してくれた。
「そ、そのここ、どこ⋯?」
その言葉に対しルクスちゃんはゆっくりと瞬きをし、首を傾けた。
「何処だろう⋯?」
その返答に数秒目があったまま固まった状態になり、無言になった。私の心境はどうか察して欲しい。
「ど、どうするの⋯?これから」
そう言うと、ルクスちゃんはいつもの笑い声とは違う乾いた笑い声を出し、「⋯どうしよう」と涙目にか細い声で呟いた。
腕時計を確認し、時間を見ると、式までは残り十分程だった。まだ時間はあるとはいえ、場所がわからない以上、何も出来ないし不味いままだ。
⋯どうする、ルクスちゃんが講堂の場所を知っているはずもなく、頼りだった筈の魔道具も今やただの馬だ。
そう悩んでいると視界の端に赤い物体が浮かんでいた。⋯私の魔道具!ふわふわと浮かんでいるそれをがしっ、と掴み、落とさないようにしっかりと持った。
これがあれば講堂までには着くだろう。⋯だが距離がそこそこある。そりゃ馬で五分も走ればそうなるか。とはいえ馬に走ってもらえば余裕で間に合うはずだ。
「⋯ルクスちゃん!」
私にしては大きな声で前に顔を向け直し、泣いているルクスちゃんに声を掛けた。
「⋯私、講堂の場所はわかる。⋯そこまで私が道案内するからルクスちゃんが馬を走らせて。⋯お願い!」
ルクスちゃんが今、悲しんでいて、心に余裕が無いのは分かってる。けど、そうしないと私は、退学の危機なのだ。どうしても遅れたりしたくない。精一杯頭を下げて、ルクスちゃんにお願いした。
「⋯頭上げて、ランペちゃん。」
少しの間、静寂が続いた後ルクスちゃんが言葉を紡いだ。その言葉に顔を上げると、少し目を赤くしたルクスちゃんが涙を拭いながらも力強く笑った。
「ここまで来ちゃったのは私のせいだよ、謝らないで。⋯どこに向かえば良いの?」
そう言い、再び前に向き直したルクスちゃんに今度は私が笑顔になった。
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