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ある少女の、不安。

  ⋯という回想は取り敢えず置いておこう。とにかく学園に遠くから通う人にはそれぞれ様々な理由があるのだろう。私達の様に何か理由があって入学する人もいれば、前世の宮野くんの様に何となくで入る人もいるという事だ。


 頭の中で思考が固まり、納得した事からうんうん、と無意識のうちに頭を縦に振ってしまっていた。


 バスの中では数人が小さな声でそれぞれ会話している。確証はないが、会話をしている人の殆どが上級生だった。私達と同じ年であろう子達は数人しか会話している者がいない。初日の登校時間から友人を作る人間の方が少ないらしい。


 その後、特に話すこともなく、私達も会話を止めた。暇だったとはいえ馬車の中で参考書なんかを読んだら確実に酔う為、大人しく外の景色を眺めていた。


 いつの間にか私達が住んでいる町は通り過ぎていたらしく、見慣れない町の風景が広がっていた。通り過ぎに見える殆どの店がまだ開店前のようだった。


 そんなうちの町よりも栄えていた町を通り過ぎ、町や森を過ぎた頃、試験の帰りにルクスちゃんと別れた停留所の近くまでやって来た。


 ルクスちゃんは乗って来るのだろうか、それとも来ないのだろうか、そんな考えを膨らませ色んな意味で胸が高鳴る。隣からラテルの視線を感じた事から、きっと顔に出ていたのだろう。


 


 

 馬車が停留所に止まったが、誰も馬車に乗車する事は無かった。それどころか人っ子一人いなかった。ここは草木が広がっている事から分かるが大勢の人が住んでいるわけでは無いのだろう。


 ルクスちゃんが現れなかった事に憂いを感じたが、まだ朝早いからいないのかもしれないと考え、もしかしたら後で来るかもしれないと思った。


 その後、特に問題も無く学園に到着した。ぞろぞろと数人が降りていったのを確認し、私も外へと降りた。試験の時と同じ様に大きな校門を潜り、校舎へと入った。


 相変わらず大きくて綺麗な場所だ。その事に感嘆の息を漏らしたが、ここからはラテルとも分かれる事を思い出した。科が違えば、クラスも違う。当然の事だ。


 ここからは一人だと言う事にも不安を覚えた。だが’ここで私が不安がっていてはいけない。しっかりしなければ、そう思った瞬間、引っ張られる様な感覚を腕に感じた。そちらに視線を向けるとラテルが私の服の袖を掴んでいた。


「⋯どうかしたの?ラテル。」


 出来る限り不安が伝わらないように通常通りの表情で言葉を伝えたつもりだった。


「姉ちゃんさっきから何か変。」


「そんな事な、」


「何があったか知らないけど多分大丈夫だよ。」


 事情を知らないはずなのに確信した様にそう言うラテルを不審には思ったが、不思議と安心感も感じた。


「⋯うん、ありがとう。」


「よし。じゃぁ僕もう行くから!何か合ったら直ぐ行けるから安心して!」


 そう言い残し、笑顔で走り去ったラテルは私が不安がっていた理由の一つは分かっていたらしい。全く我が弟ながら凄い人間だ。



 少しの不安は残っていたが、先程よりは気分が楽になった為、私も教室に向かう事にした。私は学力特化科のAクラスらしい。このクラスわけは試験の順番で決められている。



 教室がある方へと向かうと、随分と大きな扉が見えた。その大きさに少しひいた。とはいえ開かなければ何も始まらないので、意を決し、扉に手を掛けた。取手があるわけでは無い為、扉に手を当てただけだが。


 取り敢えず押してみると、案外簡単に扉は開いた。見た目と合わない軽さだ。前世で言う所の発泡スチロール並の軽さだ。


 その扉に少し驚きながらも何とか扉を開けると、広い教室が広がっていた。教室とはいえ大学の様な形になっている。だから正確に言えば講義室なのだろう。


 既に数人が席に座っているが皆バラバラだ。様子を見るに席順は決まっていないらしい。真ん中や前に座るのも嫌だった為、後ろの方の端っこに座った。



 既にいる全員が参考書を開いている為、私も大人しく参考書を取り出し開いた。学園で使用される参考書は私からすると基本のものだ。だからあまり勉強にならないし暇だ。自分用のものを持ってくるべきだった。


 そう思ったがする事も無い為、ぼーっと参考書を見ていた。時間が経ってくると人も増え、教室には人が集まり始めた。だがルクスちゃんは現れなかった。



 現在は始業時間まで残り五分程だ。やはり落ちてしまったのだろうか。⋯確かにあの子は元気っ子っぽい子だったしなあ。


「ギリギリ、セーフ!」


 突然バンッ、と強く音を鳴らし、勢いよく現れたその姿は正真正銘ルクスちゃんだった。「いやー、危ない危ない!」と言いながら乱れた髪を直している。その姿が見れた嬉しさと驚きを感じた。

 

 駆け寄りたい気持ちは合ったが今あの子はすごく目立っている。殆どの人が彼女を見ていて、とてもじゃないが近寄れない。あそこへ行けば、確実に目立つ。


「あー!!ランペちゃん!!」


 だがしかし、私が近付かなくてもあちらが近づいてくるのだ。バッチリ指を刺されており、今度は私にも視線が集まった。


 私の心情など知りもせずに駆け寄ってくるルクスちゃんに複雑な感情になったが、視線に耐えきれず持っていた参考書で顔を隠した。


 

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