ある少女の、雑談。
家から飛び出す様に出てきた私達は学園に向かう馬車が停まる停留所へと到着していた。どうやら学園に入学した生徒は学園が所有している通学馬車を使用する事が出来るらしい。
とはいえ使うのは私達平民か、下級貴族だけらしい。何故なら貴族は基本自家用の馬車があるからだ。だからお嬢様も前は屋敷の馬車を使用していた。
「⋯えーっと、次の便は、あ、良かったー⋯直ぐ来るっぽいよ!」
「遅れないように早く出たけど、これじゃぁ逆に早すぎたんじゃ⋯?」
折角早く出たというのに、意味が無かったと思うと少し残念と感じ、その言葉を口に出すとラテルが笑いながら「備えあれば憂いなしって言うでしょ?」と言った。まぁ確かに遅れるより良い。ラテルの言葉に納得し、ここは私が引く事にした。
それはそうと、ルクスちゃんは合格したのだろうか。住所を教えていたわけでも無いため、当日まで分からなかったのだ。始めて作れた友達なのだから、二人で合格したかった。それも今日分かると思うと改めてソワソワする。
「⋯姉ちゃん、どうかしたの?」
「え?何で?」
「気付いてないのかもしれないけど、姉ちゃん何かあると手の甲撫でるんだよ。それで今も撫でてたから。」
そう指摘され、手の方へと視線を向けると確かに左手の手の甲に右手が触れていた。完全に無意識の状態だったから自分では気付かなかった。
数十年生きているけれど自分のこの癖について意識した事どころか、気付いたことも無かったが為にラテルの観察眼に驚いてしまった。
「⋯本当だ。それにしてもラテルは凄いね。私でも気付いてなかった癖に気づくなんて⋯」
「⋯そりゃ、何年も一緒にいるわけだしね。」
ラテルにしては珍しく話し出すまでのに間ができていた。少し疑問には思ったけれどそこまで気にかける内容でも無いような気がし、気にしない事にする。凄い、と褒める代わりにラテルの頭を撫でた。
最初の数秒は心地よさそうに目を閉じながら大人しく撫でられていたラテルだったが、ハッ、とした動作をするとシュバッと効果音が付きそうな勢いで一歩後ろへと離れた。少し照れた顔をしている。
「ぼ、僕も成長してるんだからもうこういうのは卒業するの!」
そう言いながらも少し名残惜しそうな顔をしている。だが直ぐに首を激しく振り、決意を固めた様な顔に戻った。
「⋯そっかー、ラテルは姉離れかー。お姉ちゃん寂しいなあー」
棒読みとはなったが一つからかってみる事にした。ラテルのこういう姿はすっかり珍しいものになってしまってたからだ。
ラテルは「うっ⋯!」と葛藤するような声を上げたが、直ぐに私がからかっている事に気付いたのか怒った顔になった。
「姉ちゃん!そういうの辞めてくれないと怒るよ!」
「いや、そう言われても、つい⋯」
そう言い返すと、「⋯姉ちゃん?」といつもの調子のラテルに戻った顔つきで圧をかける様に言ってくるものだから「⋯わかりました。」と応えてしまった。
そんな事を話していると馬車が遠くから走ってくる姿が見えた。




