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ある少女の、出発。

 ラテルを追い、玄関まで駆け込むと既にラテルだけではなく両親まで揃っていた。三人は揃って雑談か何かをしていた。しかしラテルは私が来た事に気付いた瞬間に此方に呼びかけ会話を止めてしまった。


「ごめん。何か話してた?」


 会話を中断させてしまった事への罪悪感からそう訊ねてみることにした。


「ううん。大した事話してなかったから大丈夫!」


 そう応えたラテルはニコニコと笑顔を見せた。隣で話を聞いていた両親も笑顔で頷いている。その様子に安心し、胸を撫で下ろした。


「それよりもランペ?忘れ物は無い?ハンカチは持った?」


 それまで黙っていた母が声を上げ、心配そうに此方を見ていた。


「持ってる。何回も確認したから大丈夫。」


 手でグッドサインを作りながらそう伝えた。それでも母はまだ心配そうな表情をしている。その姿に一周目の時に、始めて屋敷に働きに出た時も同じ様な様子だった事を思い出し少し懐かしく感じた。



 感慨深く思い、過去の母の姿を思い出していると、未だに心配した様子の母の肩に父が手を置いた。


「⋯ランペもラテルも、きっと大丈夫だろう。」


 普段は寡黙であまり喋らない性格の父でも、こういう時には必ず母を慰める様に動く。そう、父も母も優しくて良い人なのだ。


「で、でも⋯」


「⋯二人とも、出来た子だ。確かに心配は拭えないが、信じてやろう。」


 反論しようとした母の言葉に被せる様に言った父の姿に私は驚いていた。あの父が長文を喋ったのだ。長文と言うには短い言葉だろうが、父にしてはとても長い言葉だ。チラリと確認するとラテルも少し驚いている様に見える。


「⋯えぇ、そうね。二人ともしっかりした子だもの。きっと大丈夫よね。」


 自分を落ち着ける様にそう言う母に父がコクリと頷き返した。すると、少し俯いていた母が顔を上げた。


「⋯二人とも頑張るのよ!大丈夫とは思うけど、ランペもラテルも少し抜けた所があるから⋯」


「えっ!?ぼ、僕も?姉ちゃんだけじゃ無くて?」


 父の様子に驚いた様子だったラテルは母の言葉に更に驚いた様子で目を見開いた。というか私は抜けた所があると全員に思われていたのか。酷い言われようだ。


「えぇ。だってラテルはこの前、お酢と油間違えたじゃない。あれは大変だったんだからね。」


 母がそう言うとラテルは「あ、あれは⋯」と珍しく言い返す事も出来ずに項垂れている。流石、母である。私ではもう言いくるめる事なんて出来ないラテルをこうも簡単に、


「ねっ、姉ちゃん、もう行かないと間に合わないよ!!」


 考え事をしていたというのにラテルはそう叫ぶように言い、私の腕を引っ張りながらドアを開けた。これは言い返すことが出来ないから逃げることにしたようだ。


 慌てながら外へと出ようとしたラテルと、引っ張られる私の姿を見てなのか父と母の笑い声が聞こえた。その姿が気になり、目線だけ何とか向けると母だけで無く、珍しく父も笑っている。


「いってらっしゃい。」


 両親が満面の笑みを浮かべながらそう言うものだから、何だか可笑しく感じつい私も笑ってしまった。視線を向けるとラテルも笑っている。


「いってきます!」


 ラテルと二人、声を揃えてそう言った。










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