ある少女と、笑顔。
気まずい空気が流れている事は置いておき、無理やり元の話題へと戻すことにした。正直これ以上気まずいのは勘弁して欲しい。
「そ、そんな事より、宮殿ってどういう事?何でラテルがそんな所で、」
「それは仕事の関係上で宮殿に入る事も多かったからね。その時に見つけたんだ。」
その言葉から数年前に伝えられた宮廷魔術師だった、という事実が頭に浮かんだ。その仕事とはきっとその事なのだろう。
話しているうちに少しずつ、頭が整理されてきた。つまりラテルは仕事中に偶然その魔導書を見つけ、使ってしまった。そういう事だろうか。
「それじゃあ、ラテルが魔導書を見つけたのは偶然だったの?」
「⋯否、偶然というか宮殿に行くといつも妙な魔力反応があったから⋯それを辿ってみたら見つけた、みたいな。これは偶然?否、必然?」
そう言いラテルは首を捻り、考え始めた。考えながらも「ううむ⋯」という悩む声が漏れている。一周目の最後に見た姿に段々と近づいてきたラテルは未だに愛らしい姿をしている。流石我が弟。
「⋯まぁ、いっか。それより魔導書の事言ってなかったっけ?」
「⋯多分初耳だと、⋯否、私が忘れてただけって可能性もあるの?」
そう思い、今度は私が首を捻る番になった。するとラテルも同じ様に首を捻り出した。どれだけ考えても全く思い出せない。
「まあ、いっか。」
そう口に出した言葉は前方からも聞こえてきた。聞こえてきた方向に顔を上げるとラテルが目を丸くして此方を見ている。どうやら被ったらしい。少しの沈黙が漂った。
「⋯ふっ、ははっ!」
何でも無いことの筈なのに妙に面白く感じ、思わず笑いが溢れてしまった。目を丸くしていたラテルも笑いだし、先程までの真剣な空気からは一変し、明るい空気が漂っている。
「二人とも〜、夕飯できたわよ〜。って何でそんなに笑ってるの?」
夕飯の知らせをしに来たらしい父と母が目を丸くしながら扉の前に立っていた。何故か父はフォークを持ったまま立ち尽くしている。
その様子が面白く、ラテルと目が合うとまた二人して大きく笑ってしまった。
開かれたままの窓の外からキラキラと輝く月の光が入り、部屋中を照らしていた。




