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ある少女の、また。

ガタゴトと馬車に揺られながら外の景色を見ると、そこには牛や豚らしき動物達の姿と何処までも広がる草原が広がっていた。私はその景色に圧倒され、目を瞠った。


「凄い景色でしょ!!」


 目を見開いたまま微動だにしなくなった私の顔を覗き込むように顔を向けてきたルクスちゃんの様子に我に返った。学園まで行く時にはラテルと雑談をしていたから全く気づくことが無かったがこんなに綺麗な景色なら見ておけば良かったと考える。


「うん⋯本当に凄い景色だと思う。絶景。」


 私が思ったままの言葉を率直に伝えると何故か「⋯えへへっ!」という小さな笑い声を出し、照れくさそうに笑い出した。


「何でルクスちゃんが照れてるの⋯?」


 そう聞くと今度は「⋯ふっふっふ!!」と何か秘密を含んだような笑い方をしだした。


「⋯何故か、って?そりゃ、私の地元だからである!!」


 ルクスちゃんは自信満々な様子でそう応えた。この瞬間が漫画の世界のようになったら絶対に鼻が伸びている事だろう。しかし、その解答に納得がいった私は握った片手でもう片方の手をぽんっと叩き、「なるほど。」と言った。


「⋯むぅ。あんまり驚かないんだ⋯」


 そう言い残念そうに肩を落としたルクスちゃんに「ハハッ⋯」と苦笑いをするしか無かった。少し拗ねるかも、と思い身構えたが予想とは反対に次の瞬間にはケロッとしていた。精神回復力がすごい。


「とにかく!私のお家は農家さんなのだ!⋯だからもう直ぐ降りなくちゃなの⋯」


 元気になったと思った途端にまた暗くなった。どうやら感情の突起が激しい子のようだ。見ていて飽きることが無いと思った。


 とはいえ最後の発言は私からしても悲しい内容だ。ルクスちゃんはここで降りる。つまり、この先一生会えない、という可能性も出てくるのだ。私達のどちらかが試験に落ちてしまっているかもしれない。


 そうするとこの先会える機会も少なくなるのだ。こちらの世界は連絡先の交換、なんて事は出来ない為、離れてしまったら手紙のやり取りぐらいしか出来なくなる。その手紙のやり取りだってお金がかかる。


 会えなくなるかもしれない、という想像をするとそういった良くない考えばかりが浮かんでき、途端に寂しくて悲しくなった。


 そう考えてるうちに、バスはルクスちゃんが降りるであろう場所に停まってしまった。お互いに俯き、何とも言えない雰囲気が漂っていた。が、その途端いきなりルクスちゃんはバッと立ち上がり、頬をパチンッと叩いた。


 その光景に唖然とした私はきっと間抜けな顔をしているのだろう。ルクスちゃんはこちらにバッと顔を向け、出会った時と同じ様に私の手を力強く取った。


「合格してるかはわかんない!わかんないけどっ、また会おう、ね!!」


 瞳を潤ませながらも力強くそう言い切ったルクスちゃんは取っていた私の手を解き、最後にニッコリと明るい笑顔を見せて馬車から降りたが、降りた先の停留所からは動かなかった。きっと見送ってくれるのだろう。


 ルクスちゃんの突然の行動に少し驚いたものの、直ぐに私もルクスちゃんの方に身を乗り出し、声を上げた。その時、すでに馬車は動き出していた。


「、またっ、会お!!」


 私に出せる最大の声量で何とか出せた大声は、少し震えたものになっていた。私も何だか涙脆くなったように思う。


 







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